研究課題
1000ドルゲノムプロジェクトの進行に合わせて、超マルチプレックスのPCR技術と半導体シークエンス技術を応用することで、より少ないDNAサンプル(数十ナノグラム)で、400以上の主ながん関連遺伝子の全エクソン配列情報を短時間で検討できる比較的安価なゲノムシークエンスプラットフォームを確立し、消化器がんを含む様々ながんで体細胞変異を探索し、遺伝子診断への応用を図っている。本研究では、千葉県で行われているゲノムコホート研究に応用し、消化器がんを発症したリスクグループ及び70歳までがんの発症を認めていない非リスクグループの解析を行い、県内のがん高発症地区の原因究明のため、院内患者集団と比較、さらに体細胞変異を検討することで、リスクマーカー、体細胞変異Signatureを同定し、がん予防、治療、予後予測への利用を試みることを目的として進めている。 27年度までの解析から、千葉県東北部で行っているコホート研究で収集した検体のうち、胃がん発症例40例、大腸がん発症例43例及び非がん症例33例についてIon Ampli SeqとComprehensive Cancer Panel(CCP)を使用し、Ion Torrent PGM半導体シークエンサーによる解析を行った。400以上のがん関連遺伝子の全エクソン部分のゲノム配列解析を行い、その結果、胃がん及び大腸がんを発症したリスクグループとがんの発症を認めていない非リスクグループとの比較から、リスクグループでは、より多くの報告されていない遺伝子多型が検出され、ナンセンスやミスセンス変異を示す多型も多く検出された。また、アミノ酸の変化により遺伝子の蛋白構造に影響を与え、蛋白質の機能を変えることが考えられる遺伝子として、胃がんでは2 遺伝子、大腸がんでは3遺伝子に着目した。さらに、両者のがんで共通の変異が認められた2遺伝子にも注目した。
1: 当初の計画以上に進展している
千葉県東北部の健常者を対象としたコホート研究で収集した検体(胃がん発症例及び大腸がん発症例)を用いて、リスクグループ特異的かつ機能的な遺伝子多型を同定する解析は順調に行われた。胃がん、大腸がん発症者及び非発症者合わせて116例の検体について次世代シークエンサーの解析は終了し、アミノ酸の変化により遺伝子の蛋白構造に影響を与え、蛋白質の機能を変えることが考えられる遺伝子として、胃がんでは2 遺伝子、大腸がんでは3遺伝子を選択した。さらに、臨床検体を用いた遺伝子の多型解析の準備も整っている。
次世代シークエンサーによるがん関連遺伝子エクソームの包括的な解析結果に基づき、新たなgermlineがんリスク因子と関連するSomatic Mutation Signatureを提唱することを試みる。これまでの実験から、複数の消化器がん症例で共通し高頻度のgermlineでの遺伝子変異が特定の遺伝子で認められている。これらの遺伝子変異が単独で消化器がん発症リスク、予後不良がん発症のバイオマーカーとなり得るのか、もしくは他のgermline変異やSomatic 変異と協調して初めてリスクと相関するのかについて症例を増やして検討を試みる。27年度までの解析で得られた注目すべき遺伝子について、患者腫瘍でのMutation Signatureを同定し、germline変異とともに相関解析を行う。さらに既存の臨床症状や生化学、病理検査結果、予後調査結果等を加味したうえで、さらに多変量解析を検討する。このことで包括的な予防・診断・予測マーカーの確立を試みる。最終的な確立は本研究単独では、困難であるが、臨床応用可能な次世代シークエンサー解析法は既に確立し、院内患者で応用され、腫瘍解析データが蓄積している。また、コホート追跡例も増加が見込めることより将来的に多症例で検討できると期待している。
コホート研究で収集した胃がん発症例、大腸がん発症例及び非がん症例についてリスクグループ特異的かつ機能的な遺伝子多型を同定した解析結果を基に、院内バイオバンク集積症例の中から、早期60歳以下発症例について同様のgermline検討を行う予定であったが、コホート研究で収集した検体での解析をより精度の高いものにしてから次の解析を行うこととしたため、繰り越しが生じた。
コホート研究で収集した胃がん発症例、大腸がん発症例及び非がん症例について、さらに症例数を増やし遺伝子多型解析を行った結果をまとめる。そして臨床腫瘍検体(胃がん、大腸がん)を用いて、コホート検体で得られた結果と同様の遺伝子多型が認められるか検討を行う。
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