研究課題
しょうゆ、みそなど発酵調味料の摂取による食塩摂取過多を特徴とする、日本人集団を対象とした有効な減塩手法として、減ナトリウム(Na)かつカリウム(K)補給が可能な低Na/K比調味料の開発推進に、岩手県矢巾町とともに取り組んだ。2016年秋には、低Na/K比(従来品と比較して25%低Na、20%高K)のしょう油、味噌、および食塩が公表、発売となった。これら調味料の実用性、及び使用によりNa、Kの摂取プロファイルが改善するかの検討を目的として、2016年11~12月に矢巾町一般住民を対象として低Na/K調味料使用の実証実験を行った。33名が参加し、標準調味料(2週間)、低Na/K調味料(2週間)を使用し、各期間の後半1週間継続して随時尿を採取し、随時尿中のNa/K比を比較した。低Na/K比調味料使用中の尿Na/K比(3.28)は標準調味料使用時(3.96)に比べ有意に低下した(P=0.001)。また尿中Na/K比の差は、介入前Na/K比の低い群で小さく、高い群で大きかった(-0.277 vs. -1.388, P<0.001)。美味しさを損なわず普段通りに使用され、特に塩味嗜好が強く減塩がより必要な対象において有効な高血圧予防手法であると考えられた。また、国際共同疫学研究(INTERMAP研究)において日本人集団を対象に収集した24時間思い出し法による詳細な食品摂取データと24時間蓄尿による尿中ナトリウム排泄量を用いて、低/高Na摂取集団における食品摂取傾向を詳細に検討し論文公表した。高Na摂取集団で塩干魚や漬け物などの高塩分食品の摂取量が多いほかに、低Na摂取集団においてはパン、牛乳、清涼飲料水など洋食傾向の食品摂取量が多い傾向があることを示した。これら、低Na/K比食品の開発や、日本人集団におけるNa摂取傾向の解析結果は、本邦における減塩施策の推進に重要と考える。
3: やや遅れている
平成28年度に計画していた矢巾町特定健診受診者を対象とした調査を、準備が間に合わず実施することができなかった。
【低Na/K比調味料実証研究の成果公表】平成29年度研究では、前年度に行った低Na/K比調味料の実証研究において、一般住民が問題なく使用できたこと、使用により尿中Na/K比プロファイルに改善が見られたことの学会発表および論文公表を行う。これにより、低Na/K比調味料使用による高血圧対策の有効性を訴え、さらなる普及を目指す。食品メーカー等に対する情報提供も積極的に行う。【国民の食品摂取とNa,K摂取量および血圧の状況との関連】本研究において、すでに低Na/K比のしょう油、みそ、食塩が開発されたが、さらに他の食品においても低Na/K比食品が開発され国民の食品選択による高血圧予防の選択肢が広がる必要がある。本研究において既に、INTERMAP研究結果を用いてNa摂取寄与の多い食品を明らかにしたが (Okuda N他、Eur J Nutr. 2017)、用いた食事調査結果はおよそ20年前と古いものであり、また、対象集団も約1200名と限られている。国民全体における減塩推進においては、家庭等での調味料使用の削減とともに、加工食品での減塩(製造レシピの変更)も重要である。加工食品での減塩および低Na/K比化は、本邦全体において、あるいは供給される地域において、寄与の高い食品で優先して行われるべきである。平成24年国民健康・栄養調査結果の2次利用データを用いて、性、年齢階級、地域別のNaおよびK摂取状況およびそれらの摂取源である食品摂取の状況を、体格や治療状況等を考慮して検討する。さらには、それら摂取状況と血圧値あるいは高血圧の状況との関連を検討する。これにより、地域あるいは年齢階層別に、低Na/K食品を開発した場合に高血圧予防効果の大きい食品を明らかにすることが可能であり、効果的な高血圧予防において重要な知見となるものと考える。
低Na/K比調味料の実証実験の対象者数が当初予定より少なく、支出額が少なくなった。
平成24年度国民健康・栄養調査(大規模データ)の2次利用データを使用した解析、論文公表をのために必要なコンピュータ及び解析ソフトの購入にあてる。学会発表も積極的に行う。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
European Journal of Nutrition
巻: 56 ページ: 1269-1280
10.1007/s00394-016-1177-1
BMJ Open
巻: 6 ページ: e011632
10.1136/bmjopen-2016-011632