認知症患者は急速に増加しており、個人はもとより、介護、医療などによる社会的損失は計り知れない。早期の発見、介入が重要であり、早期診断が可能かつ認知症の発症予測に役立つバイオマーカーの開発が待たれている。本研究では、多目的コホート研究(JPHC Study)対象者のうちの佐久地域住民について行われるメンタルヘルス検診と同時に眼科検診を行い、神経網膜変化が認知症と関連するかを明らかにし、認知症の発症予測因子となり得るかを“光干渉断層計(OCT)”を用いて検討する。OCTによる網膜厚の測定は非侵襲的で、短時間で測定可能であり、定量的で再現性が高く、認知症予測のバイオマーカーとして確立できれば、その意義は大きい。さらには早期介入後の治療効果判定の指標などへの応用が期待できる。 慶應義塾大学精神科が行うメンタルヘルス検診と同時に、H26年6月より眼科検診を行い、べースラインのデータを収集した。眼科検診では、OCT 検査の他に調整因子となる屈折・眼圧検査と眼底写真撮影を行った。検診はH26年に4回、H27年に2回、H28年に1回行った。検診結果を眼科・精神科各々データベース化し、突合の上、統計解析を行った。同意が得られ、眼科、精神科ともにデータを持つものは1287名であった。年齢、性別、屈折値などを調整後、視神経乳頭陥凹所見、黄斑部網膜全層厚、黄斑部網膜内層厚(神経線維層+神経節細胞層+内網状層)の主に下方領域の測定値と認知症との間に関連が見られた。軽度認知障害では関連は見られなかった。 本研究では、1年間の予定の検診が自治体の都合で2年間に延長されたが、予定したサンプル数を得ることができ、仮説通り網膜厚と認知症との関連を日本人コホートで示すことができた。今後の臨床への応用の準備データとしての意義のある結果であり、追跡研究でのデータの蓄積が望まれる。
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