研究課題
1年目にあたる平成26年度は計画通りに以下の3つの取り組みを実施した。1)殺虫剤散布職域従事者を対象に健康診断を8月および3月に実施し、それぞれ59および49名の検診参加者から生体試料を採取・保存した。また、8月には九州地方の花卉栽培業者を対象とした健康診断に参加し、研究参加への同意が得られた90名から尿サンプルを採取・保存した。2)8月に実施された殺虫剤散布職域従事者の健康診断で得られた尿59検体から網羅的化学物質分析を試みた。分析法は暫定的に尿中ピレスロイド系殺虫剤代謝物類の検出法、すなわちtert-ブチルメチルエーテルにて液-液抽出した後にHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)で誘導体化したものをGC-MSにて分離分析を実施した。その後、アジレント社製のクロマトグラフデコンボリューションソフトウェアにて各クロマトピークを抽出し、NISTライブラリーにてピークの同定作業を行った。2名から他の57名にはほとんど存在しない特異的なクロマトピークが検出された。1名はハト忌避剤、他の1名は殺鼠剤を尿採取に近い日時に散布する作業を行っていたことがアンケート調査から判明した。現在は2名から検出された尿中代謝物の同定作業を進めている。3)新たに尿中ネオニコチノイド系殺虫剤分析法を確立し、初めて農業従事者(花卉栽培業者)に応用した。その結果、前述の殺虫剤散布職域従事者に比べて花卉栽培業者の尿中ネオニコチノイド系殺虫剤量は高値を示す対象者が散見された。これは、比較的作業者への曝露量が少ないと言われているネオニコチノイド系殺虫剤曝露の職業的曝露を証明した結果である。
2: おおむね順調に進展している
各健康調査を利用した生体試料収集作業は、現場とのコミュニケーションを密にとりあり、信頼関係を構築する必要がある。そうでなければ、研究者による各種調査の円滑な実施は困難となるが、本研究では詳細な計画と現場との十分な準備期間をもうけたため順調に進展していると思われる。また、メタボローム分析法実施のための情報や技術の習得も順調に進んでいる。
研究実績の概要で示した通り、2名の尿から忌避剤や殺鼠剤の新規曝露バイオマーカーと思われる物質が検出されているが、同定作業に関する正確性を向上させるべく、分析機器の変更を検討している。すなわち、MS分解能が飛躍的に向上するGC-QTOFを用いた検討を実施予定である。尿中ネオニコチノイド系殺虫剤分析は、一般生活者集団で調査を行った場合、検出率が50%を切る物質が多く存在する。そのために、詳細な統計学的解析を実施することが困難であり、今後は尿中ネオニコチノイド系殺虫剤分析法の高感度化(分析装置の変更等を検討)を他の計画の進行と同時に進める予定である。
若干の分析方法の改良を加え、使用するセプタムの使用数を最小限にすることができたため、次年度使用額が生じた。しかし、本改良は分析機器の他の消耗品の劣化や詰まりのリスクが増加することが判明したため、この改良は本年度は採用しないこととする。
最適なセプタム(サンプルの揮発が少ないもの)の選択を行うために、各メーカーからそのサンプルを入手することに資する。
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