研究課題
毒性の強い有機リン系農薬の代替として、ネオニコチノイド類農薬は昆虫のニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)にアゴニスト作用によって強い毒性を発揮するが、ヒトには安全であるとされ、世界中で汎用されている。しかし、最近、ヒトで農薬散布後に健康被害例が報告されてきており、実験動物においてもネオニコチノイド類を大量投与すると神経や筋に関連する広範な症状が出現する事がわかってきた。さらに、nAChR は神経系以外に免疫系や生殖器系などの多臓器にも発現しており、性成熟後の精巣での障害が報告されているが、性成熟期前の精巣にネオニコチノイド類が影響を与えることを検討した報告はない。27年度は性成熟期前の雄マウスにネオニコチノイド類を投与する前段階として、性成熟後の雄マウスにネオニコチノイド系農薬であるアセタミプリドを投与し、精巣に与える影響を検討した。10週齢A/Jマウスを用いて、アセタミプリドを水道水に溶かし自由飲水(無毒性量の100倍量/day)させる実験群および水道水のみ自由飲水させるコントロールの2群に分け、3日および7日後に安楽死させ、精巣および脳を深麻酔下で摘出し、形態学的および分子生物学的に評価した。3日および7日後の体重は実験群で有意に減少したが(p<0.05)、精巣の組織学的観察では特に変化はなかった。マイクロアレイによる遺伝子発現については精巣では薬剤代謝系やステロイド合成系関連遺伝子の変化が見られた。アセタミプリド曝露は形態学的変化を誘導しない投与量でも、遺伝子学的には様々な変化を及ぼすことが示唆された。したがって、アセタミプリド曝露は精巣内環境に影響を与える事がわかった。
2: おおむね順調に進展している
性成熟期前の雄マウスにネオニコチノイド類を投与する前段階として、性成熟後の雄マウスにネオニコチノイド系農薬であるアセタミプリドを投与し、精巣に与える影響を検討した。結果、ステロイド合成系や薬剤代謝系遺伝子が変化し、精巣内環境に影響を与える事がわかった。性成熟期前の雄マウスで検討する因子が多岐にわたり定まらない事から、今回の結果はネオ二コチノイドを今後検討する上で有用だと考えられる。
ネオ二コチノイド類はアセタミプリドだけではなく、ジノテフラン、イミダクロプリド、クロチアニジンなどが存在する。本年度の結果が他のネオ二コチノイド類にも共通する現象なのかと検討する必要がある。また、今回の結果で示された遺伝子が変化するメカニズムがわかっていない。来年度は以上の事踏まえ、検討する必要がある。
研究の進展に伴い、当初予想し得なかった新たな知見が得られたことから、その知見を使用し十分な研究成果を得るために、当初の研究計画を変更する必要が生じたことにより、その調整に予想外の日数を要したため年度内に完了することが困難となった。
新たな知見に含めた年次計画に則り、適正に支出します。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (9件)
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巻: 9(1) ページ: e86951
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