研究実績の概要 |
大気中浮遊微粒子はヒトに発がん性がある。本研究では、微粒子や大気汚染物質による肺の障害作用、炎症、DNA損傷を解析して、発がんリスク評価と予防対策に繋がる基礎的知見を得ることを目的としている。 大気汚染物質の成分であるナフトキノンおよびヒドロキシナフタレンについて、DNA損傷性と機序を解明するため、放射性標識した単離DNA断片を用いて解析した。1,2-ヒドロキシナフタレン (1,2-NQH2) と1,4-ヒドロキシナフタレン (1,4-NQH2) は、銅イオン存在下で濃度依存的に酸化的DNA損傷をもたらした。生体内還元物質NADHを添加すると、1,2-ナフトキノン (1,2-NQ) は顕著にDNAを損傷したが、1,4-ナフトキノン (1,4-NQ) は損傷しなかった。1,2-NQに比べ1,4-NQは還元されにくいためと考えられる。この酸化還元特性から、DNA損傷機序において、1,2-NQ/1,2-NQH2 が1,4-NQ/1,4-NQH2 に比べて重要な役割を果たす可能性がある。(論文投稿中) ビグアニド系糖尿病治療薬は、抗がん作用が期待されているが不明な点も多い。酸化的DNA損傷に及ぼす影響と機序を解明するため、ビグアニド系化合物のメトホルミン、ブホルミン、フェンホルミンを用いて検討した。ビグアニド単独ではDNAを損傷しなかったが、銅イオンと過酸化水素による酸化ストレス条件下においては、酸化的DNA損傷8-oxodGの生成を著しく増強した。DNA損傷増強効果は、抗がん作用に関与する可能性がある一方、正常細胞には発がんをもたらす可能性もあり、更なる研究が必要と考えられる。また、酸化的DNA損傷の増強に、ビグアニド由来の窒素中心ラジカルが関与する可能性が示された。(Ohnishi S et al. Free Radic Res. 2016)
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