研究課題
テトラブロモビスフェノールA(TeBBPA)は、低毒性であるとされていることからABS樹脂やエポキシ樹脂の添加型難燃剤としてプラスチック製品に繁用されている。しかし、TeBBPAは低毒性であるものの、動物試験において内分泌攪乱作用や免疫抑制作用を有することが報告されている。昨年度の研究実績はこれらTeBBPAとその脱臭素化体の高精度迅速型分析法および内分泌攪乱作用を調査するため血中の性ホルモンの包括的かつ一斉分析法を開発してきた。平成27年度の研究実績は、乳幼児用食品(離乳食調理用食品および母乳)に含まれるTeBBPAおよびビスフェノールA(BPA)について調査を行った。離乳食調理用食品については、日本食品標準成分表に従い、18群の食品の中、日本人の摂取量が多い、野菜類、肉類、芋類を選定し、本年度の対象とした。また、母乳は17人の母親から出産1週間後に採取した母乳を用いて行った。離乳食調理用食品は野菜類としてカボチャ、トマト、パプリカ、いも類としてジャガイモ、肉類として鶏肉、豚肉、牛肉を選定した。肉類を分析したところ、TBBPAが2.2~3.9 ng/g、BPAが2.9~4.1 ng/gであり、牛、豚、鶏の相違はなかった。一方、野菜類及びいも類はいずれも1 ng/g以下であり、TBBPA及びBPAによる汚染はほとんどないことが明らかとなった。母乳中のTeBBPAおよびBPAの濃度は、それぞれn.d.~8.7 ng/gおよび1.4~380 ng/gであった。興味深いことに母乳中にはTeBBPAの脱臭素化体であるトリブロモビスフェノールA(TriBBPA)が同定され、その平均濃度は6.0 ng/gであった。これら化学物質による新たな知見として、母乳中にはTriBBPAはTeBBPAよりも高濃度であり、その平均濃度はTeBBPAの3倍であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、開発した臭素化難燃剤の高精度迅速型分析法を用いて、乳幼児食品中のテトラブロモビスフェノールA及びビスフェノールAの分析を行った。乳幼児食品には、離乳食用食品や母乳も含まれ、乳幼児が摂取する可能性のある臭素化難燃剤を推定することが可能となった。従って、平成27年度の目的に対する成果が得られたと判断した。
今後の研究推進方策として、次の2つの動物実験を予定している。1つはテトラブロモビスフェノールA(TeBBPA)の代謝機構の解明、2つはTeBBPAが与える内分泌かく乱作用を含めた生殖毒性に関する検討である。具体的には、1のTeBBPAの代謝機構の解明では、平成27年度に明らかとなった母乳中に含まれるトリブロモビスフェノールA(TriBBPA)は、TeBBPAの代謝物であるかを解明するとともに、TeBBPAの体内分布や排泄率についても検討を行う。2の生殖毒性に関する検討では、TeBBPAを投与したマウスから血液を採取し、性ホルモンの分泌をモニターし、TeBBPAが与える影響について考察する。また、経世代的な影響を確認するため、TeBBPAの摂取群と非摂取群に分け、その交尾率、受胎率、出生仔の雌雄比や生存率を確認する。研究最終年度になる平成28年度は、TeBBPAが与える毒性影響について精力的に行う予定である。
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