研究課題/領域番号 |
26460815
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
保利 一 産業医科大学, 産業保健学部, 教授 (70140902)
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研究分担者 |
石田尾 徹 産業医科大学, 産業保健学部, 講師 (90212901)
樋上 光雄 産業医科大学, 産業保健学部, 助教 (40588521)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光触媒 / シリカゲル / メタノール / 防毒マスク吸収缶 / 酸化チタン / 破過時間 |
研究実績の概要 |
酸化チタン光触媒を溶射したシリカゲルを防毒マスクの吸収缶に用いることができるか否かについて基礎的な検討を行った.恒温槽内に設置したガラス製の容器にメタノールを入れ,空気を導入してバブリングさせることにより,メタノール蒸気を発生させた.これを室内の空気で希釈し,光触媒溶射シリカゲルを充填したガラスカラムに,防毒マスクの国家検定と同じ流量30 L/minで通じ,カラム出口の蒸気濃度を経時的に測定することにより,破過曲線を求めた.温度と湿度をコントロールするため,吸着部は恒温槽内に設置し,流量はマスフローコントローラーで制御した. 次に,光触媒溶射シリカゲル充填カラムの内部と周囲からLED電灯あるいは蛍光灯の光を照射しながら空気を通じることにより,メタノールを脱着および分解させた.カラム出口の蒸気濃度を吸着破過実験と同様に経時的に測定し,脱着曲線を求めた.メタノールの脱着がGCで検出できなくなった段階で脱着を終了し,脱着曲線を積分することにより,見かけの脱着量を計算した.得られた脱着量と吸着破過実験で得られた吸着量を比較することにより,吸着量と分解量について定量的に検討した.これを1サイクルとし,吸着・脱着をくり返して破過曲線,脱着曲線を求め,当初の破過曲線と比較することにより,光触媒溶射シリカゲルの再生使用の可能性について検討した.また,光を照射しない場合の吸・脱着特性についても同様に検討し,光触媒の効果について考察した.平成26年度は可視光用の光触媒を用いたが,平成27年度は,紫外光用の光触媒を溶射したシリカゲルを用いて紫外光を照射した実験も行い,可視光用の場合と比較した.また,平成26年度の結果から,光触媒による効果が湿度の影響を受けることが考えられたので,湿度を変えて実験を行い,その影響についても検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は,前年度に引き続き,蒸気発生器で発生させたメタノール蒸気を室内空気と混合させたものを試験ガスとし,同一の光触媒溶射シリカゲル層に通じて,光照射あり,光照射なしの2通りの条件で吸着,脱着実験を繰り返し行った.平成26年度の結果から,湿度の影響が大きいことがわかったことから,温湿度をもっと厳密に制御できるように装置の改良を行った.これに時間を要したため,データ収集はやや遅れ気味である. 破過曲線は,光照射なしの場合は,出口濃度は入口濃度を超えて高くなるが,光照射ありの時は,入口濃度までは達しないことがわかった.高湿度ほどこの傾向は顕著であった.これは,光照射なしの場合は,光触媒が働かないためメタノールの分解が起こらず,かつ,吸着していたメタノールの一部が水蒸気によって置換脱着されたため,その分濃度が高くなったが,光照射ありの場合は,光触媒がメタノールを分解するため,濃度が低下し,出口濃度が入口濃度に到達しなかったことが考えられた.ただし,光触媒の破過時間に与える影響は小さく,破過時間を長くする条件を検討する必要がある. 平成26年度に用いた可視光用の光触媒に比べ,紫外光用のほうが効率が高いことが考えられるので,平成27年度は,紫外光用の光触媒と紫外光を用いた実験も行ったが,破過曲線については,可視光用と大きな違いは見られなかった.このため,再び可視光用に戻して追加のデータ収集を行った. また,光触媒によるメタノール蒸気の分解の際に,有害な中間生成物が生成する可能性がある.これについては,平成26年度に検知管を用いて定性的な検討を行ったところ,明確な結果は得られなかった.これについては本年度検討する予定であったが,破過曲線のデータ収集に時間を費やしたため実施できなかった.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に引き続き,光触媒溶射シリカゲルを充填したカラムを用いて,吸着破過特性,脱着・再生特性を調べる. 平成27年度の研究結果から,接触時間を長くして検討する必要が出てきたため,蒸気を含む空気を一過性に流すのではなく,カラムを通過する空気の一部の空気を循環して再吸着させることにより,蒸気との接触時間を長くとれるように装置を改良し,循環比とメタノールの分解効率の関係を検討する.その結果に基づき,防毒マスクに応用できるための条件を考察するとともに,防毒マスク以外の応用,たとえば,平成24年の有機溶剤中毒予防規則等の改正により,局所排気装置等以外の発散防止技術の導入が可能となったが,本研究で検討した吸着分解法がこの技術の一つとして応用可能かどうかについても検討したい. また,メタノールの分解に伴って生成する可能性がある中間生成物の同定についても検討する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に予定していた紫外光用の光触媒のメタノール分解効率が期待していたほど高くなかったため,再度,可視光用の光触媒に戻し,条件をさまざま変えて吸・脱着実験を行ったこと,また,温湿度調整のための装置改良に当初の予定以上の時間を要したことなどから,実験計画に遅れが生じていたため,本年度計画していた研究の中の副生成物の検討ができなかった.したがって,このために必要としていた消耗品等について,未使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は,最終年度であり,今後の研究の推進方策で述べた計画にしたがって,光触媒によるメタノール分解特性について引き続き検討する予定である.前年度から持ち越した副生成物の同定については,有機物であれば,FID付ガスクロマトグラフ(GC)で検出できると考えられるが,現在までの研究ではGCで検出できる物質は見つかっていない.メタノールの分解による中間生成物としては,ホルムアルデヒドが考えられるが,ホルムアルデヒドについては,GCでは検出が困難であるので,まず,検知管やリアルタイムモニタにより,定性的な検討を行う.さらにDNPH-カートリッジを用いてにカラム出口の空気を採取し,高速液体クロマトグラフにより分析定量する方法についても検討する.
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