我々は、2003年より三陸沿岸部で出生コホート調査を進めており、その後、大震災を体験した。震災時は社会生活能力を調べる生後66ヶ月(5歳半)調査を進めていたが、震災前に調査終了した群と震災後に実施した2群が生じた。その2群を比較したところ、震災後群で社会生活能力の低下が示された。震災等の異常な出来事の後に、PTSD様症状や過度のストレス症状を示す子どもがいることは周知の事実であるが、出来事から数年後に現れる子どもの存在が指摘されている。本申請では、1.震災から3年後の社会生活能力を調べ、震災影響を調べるとともに、2.出生コホート調査で収集した出生時からの過去データを用いて、震災影響を受けやすい子どもの特徴を明らかにすることを目的とした。 調査は計画通りに順調に終了することができ、追跡率は8割を越えており、コホートとしての機能を十分に維持できていると考えられた。調査は、計画通りに進めることができたが、最終年度に研究代表者が所属を変更したために研究期間を延長し、平成29年度に解析を進めた。 解析結果として、生後120ヶ月児(10歳)を対象として推定した社会生活能力指数は、震災前群と震災後群で統計学的な差異は観察されなかった。生後66ヶ月時には差異が認められたことから、震災後数年の間に子どもたちがキャッチアップしたか、もしくは、震災前群も被災を受けたことから社会生活指数が低下したかが考えられた。また、社会生活能力指数には、育児環境や親のIQが関連していることが示された。
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