研究課題/領域番号 |
26460831
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
尾島 俊之 浜松医科大学, 医学部, 教授 (50275674)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 保健医療政策 / Nudge |
研究実績の概要 |
この研究では、3つの目的を設定している。第1には、ナッジに関する理論的な検討や先行研究から、ナッジを活用した健康政策に関する概念を整理すること、第2には、日本で実施されているナッジを活用した健康政策及び具体的な事業について取り組み状況を明らかにすること、第3には、主要な取り組みについて、その効果を検証することである。 研究の初年度は、まずナッジに関する理論的な先行研究及び特定の実践研究などについての先行研究について、PubMed、Google Scholar、医学中央雑誌等の検索により収集を行った。その一例としては、集大成された書籍として、Thalerら(2008)、Johnら(2011)によるものを検討した。健康政策に関連する論文としては、大島(2013)がa ladder of interventionsとして喫煙対策を例として介入の強さ別に整理している。 OliverとRaynerら(2011)はBMJ誌において、肥満対策に対するナッジの活用について賛否のディベートを行っている。保健医療分野以外では、消費者の選択、省エネルギー行動、耐震補強に関する報告等が行われている。理論に関する論文としては、政治哲学、法学、倫理学のものが報告されている。全体として、ナッジについて正面から取り上げた論文の数は余り多くはなく、ナッジに関する検討は始まったばかりといえる。 次に、日本におけるナッジを活用した取り組み事例について、文献や保健関係者へのインタビュー等によって収集を行った。その結果、社会的な仕組みや情報提供などによるソフト的なアプローチと、道路環境の改善などによるハード的なアプローチに整理できると考えられた。さらに、近年、健康政策のアウトカムとして健康寿命が注目されていることから、健康寿命との関連についての検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、ナッジに関する理論的な先行研究及び特定の実践研究などについての先行研究の収集、日本におけるナッジを活用した取り組み事例の収集について順調に進行している。ナッジを活用した取り組み事例としては、社会的な仕組みや情報提供などによるソフト的なアプローチが多数の自治体で実施されていた。特に、健康づくり活動にincentiveを与える健康ポイント制度が急速に多くの自治体に普及していた。また、地域内のウォーキングマップや、日々の歩数に応じて東海道五十三次を進むような仮想的なマップ等の活用も行われていた。さらに、企業と連携した取り組み事例も多数見られた。健康ポイント制度において企業の協賛を得ている事例や、企業表彰によって企業内の健康づくり活動や地域の健康に貢献する活動の活性化を図っている事例、自治体によるウォーキング普及と企業によるウォーキングシューズの販売促進を連携して実施している事例などがみられた。ハード的なアプローチとしては、ウッドチップを埋めた歩きやすい歩道を整備する取り組み、ウォーキングコースの表示を設置したり歩行のペースがわかるようなラインを歩道に表示したりする取り組み、町中を回遊して歩行したくなるように魅力的な施設を一定の距離を離して配置するような都市計画を行っている事例などがみられた。健康政策のアウトカムとして注目されるようになっている健康寿命との関連分析の結果では、筋骨格系疾患、抑うつ、趣味・学習活動などの重要性が示された。従来から強調されていた生活習慣病へのナッジの活用だけではなく、これらの課題に対する活用の重要性が明らかとなった。以上の進捗状況であることから、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、健康ポイント制度を始めとして初年度の研究により把握されたソフト的またハード的なナッジを活用した取り組みについて、全国の市町村における実施状況を調査する。具体的には、全国の市町村を対象として自記式郵送調査を行う。調査項目は、種々の取り組みの類型別に、取り組みの有無や開始年、評価の試みの有無やその方法などとする。その調査データについて、生態学的に取り組みの効果の検証のための分析を行う。すなわち、種々の取り組みの状況を説明変数としと、特定健康診査及びがん検診受診率、要介護認定割合、高齢者の生活機能評価、健康寿命等、またそれらの改善率や年次推移の傾きなどのアウトカム指標を目的変数として、人口規模やその他の交絡因子を共変量として重回帰分析などによって関連性の検討を行う。 また、その後、ナッジを活用した取り組みを行っている市町村のうち、1~2の市町村についてモデル市町村とし、その評価を試みる。無作為抽出した住民への郵送法による自記式調査を行う予定である。もしくは、健康ポイント制度に参加した住民などを対象として、特典の交付を得る際に自記式調査を実施する方法を検討し、回顧的に健康意識や健康行動の変化等を検証する。また、必要に応じて既に調査が行われている既存データも活用しながら、分析を進めていく。さらに、ナッジを活用した特徴的な事例に関するインタビュー調査や、学術研究等に関する情報収集も引き続き進めていく。円滑に情報を収集し、研究を推進するために、市町村との連携の他、健康寿命の延伸や、介護予防について取り組んでいる研究者とも連携を強化しながら実施する。 研究結果については、順次、その成果の発表を行う。学術論文・学会発表等により公表する他、ホームページからの研究成果の発信等も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定ではパーソナルコンピュータ等の購入を予定していたが、それを延期し、次年度以降に必要に応じて実施することにした。また、情報収集のための旅費を多めに予定していたが、学会や研修会等の機会を活用した情報収集も行うことにより、当初の予定よりも必要額を圧縮することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降、自治体への調査及びモデル市町村における一般住民への郵送調査を予定しているため、調査票の印刷費、郵送料、入力等に使用する計画である。さらに、引き続き情報収集や研究成果報告のために使用することを計画している。
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