研究課題/領域番号 |
26460831
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
尾島 俊之 浜松医科大学, 医学部, 教授 (50275674)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 保健医療政策 / Nudge |
研究実績の概要 |
この研究は、ナッジを活用した健康政策に関する概念を整理すること、日本で実施されているナッジを活用した健康政策及び具体的な事業について取り組み状況を明らかにすること、主要な取り組みについてその効果を検証することを目的としている。 理論的な整理に関しては、先行研究の検討を行った。ナッジを活用した健康政策の概念としては、「人々を強制することなく、きっかけの提供や仕組みづくりなどによって、より健康になる方向に誘導すること」と整理することができた。 日本における具体的な取り組みについては、自治体における事例収集を進めた。健康ポイント制度(健康マイレージ制度)をここ数年に導入している自治体が多く見られた。これは運動や健診受診等の取り組みを行うことでポイントが貯まり、一定量になると特典がもらえるというものである。交通系カードや歩数計を活用している事例も見られた。その他、市街地の中に、寄りたくなる拠点を一定の距離をおいて配置することにより、市民が回遊することを目指す取り組みや、住民が交流できる施設を設置し多様な活動を活性化するなど、ハードの整備による取り組み事例がみられた。さらに、ウォーキングマップ作り、体操やウォーキングの会、サロン活動の推進、ナッジとなりうる情報を提供するホームページの開設などのソフト的な取り組みなどが収集された。 効果検証については、健康マイレージ制度等について検討を行った。さらに、近年、健康政策のアウトカムとして健康寿命が重視されており、また中間アウトカムとして社会参加が重視されていることから、社会参加に着目した健康寿命の算定を試行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナッジを活用した健康政策に関する概念を整理、日本で実施されているナッジを活用した健康政策及び具体的な事業について取り組みの収集、健康ポイント制度等の効果の検証を進めており、概ね順調に進展している。 日本におけるナッジを活用した具体的な事業としては、健康ポイント制度を取り入れている自治体や、地域づくりによる健康づくりや、介護予防に取り組んでいる自治体の状況を把握することができた。 健康ポイント制度の効果検証については、多数のチラシや応募用紙の配付等を行っても、実際に特典を得るところまで達成する人数が少ない状況であり、多くの自治体において住民の健康状態の改善までを期待することは難しい状況であった。また、健康ポイント制度は、そもそもは健康に関心の無い層に健康づくりのきっかけとしてもらうことを意図していた。しかしながら、A市においては、特典カード交付者に対してアンケート調査を実施したところ、参加者の多くが以前から健康行動をとっている層であり、健康ポイント制度によって新たに健康行動を始めた人は少ないことがわかった。一方で、制度の開始に当たって、特典の協賛をしてくれる企業を回ることにより、企業と行政が顔見知りになり、他の健康づくり活動における連携が図りやすくなったという副効果が見られた。 健康政策のアウトカム指標として、社会参加として友人と会う頻度に着目した健康寿命を試算した。その結果、日本は先進諸外国と比較して女性の健康寿命は長いのに対して、男性は短い傾向であることが明らかとなった。健康政策について、新しい方法による検証にも踏み込むことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、全国の市町村への自記式郵送調査により、健康ポイント制度を始めとしたナッジを活用した取り組みについての実施状況を把握する。さらに、その評価の実施状況や実施上の課題などについても把握する。 健康寿命による健康政策評価についても新しい指標を用いた評価の実行可能性及び有用性が示唆されたことから、国内の各地域における健康政策の評価指標としての検討を進めていく予定である。 ナッジを活用した健康政策は、従来の保健指導や健康教育と比較して、健康に関心の無い層への効果が期待されている。一方で、これまでの研究から、例えば健康ポイント制度を導入したとしても、そのような側面でのメリットは限定的である可能性があり、その他の戦略の検討も進めていく必要がある。ひとつの方策としては、災害時をイメージして健康について考えてみるきっかけとすることがありうるため、そのような検討も進めていく予定である。 今後の研究を円滑に推進するために、市町村との連携の他、健康寿命、介護予防、災害時保健について取り組んでいる研究者とも連携を強化しながら実施する。 研究結果については、順次、その成果の発表を行う。学術論文・学会発表等により公表する他、ホームページからの研究成果の発信等も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定ではパーソナルコンピュータ等の購入を予定していたが、それを延期し、次年度以降に必要に応じて購入することにした。また、情報収集のための旅費を多めに予定していたが、学会や研修会等の機会を活用した情報収集も行うことにより、当初の予定よりも必要額を圧縮することができた。健康ポイント制度等に焦点を当てた調査を検討していたが、その効果が限定的であることが示唆されたため、再検討を行った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、全国の自治体等への郵送調査を予定しているため、調査票の印刷費、郵送料、入力等に使用する計画である。さらに、引き続き情報収集や研究成果報告のために使用することを計画している。
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