救急医療において覚知から医療機関へ到着に要する搬送時間は,救命率に影響を及ぼす。そこで、本年度の研究の一環として消防本部の実搬送データを活用し、対象地域における現着時間の推定傾向面を作成するとともに、国勢調査の基本単位区別での現着時間の地域差を明らかにした。対象地域における現着時間の推定傾向面の作成では、地理情報システム(GIS)を活用してKriging法に基づき実施した。また、基本単位区別での現着時間の地域差の検討では、国勢調査2010の基本単位区統計の位置情報を活用した。 分析の結果、地理情報システムを活用した現着時間の推定傾向面により対象地域における現着時間の地域差が明らかになった。具体的には、分析対象地域において消防署から5分以内で到達できる地域がある一方で、30分以上の時間を要する地域が存在することが地理的に浮き彫りとなった。また、国勢調査の基本単位区に含まれる人口数に基づく解析より、現着時間が5分以内の場所に居住する住民は2.6%、5分~10分以内の場所に居住する住民は78.4%であることが明らかとなった。なお、15分以内で到達できる範囲に居住する住民割合は、98.8%であった。以上より、既存の救急隊の立地は、対象地域の人口分布に十分対応可能であることが明らかとなった。今後は、現着に時間を要する地域への個別対応のあり方を検討するとともに、データを蓄積してより精度の高い推定の実施とそれに基づく施策の検討が有益であると考えられた。
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