研究実績の概要 |
本研究の目的は薬物による有害事象の発生原因となり得る薬力学的機序を計算機推論により導出する手法の開発である。 これまで、まず薬効薬理オントロジーフレームワークの開発を行った上で、薬物分子とそのターゲット、ターゲットへの作用から次々に引き起こされる生理学的状態、それらから最終的に観測され得る症状・所見といった因果連鎖知識について、DrugBankなど既存のデータベースから収集を行ってきた。また不足している状態連鎖の知識については、解剖構造物のメカニズムに基づいた推論(例えば膀胱のムスカリン受容体の阻害作用から平滑筋弛緩状態が起こった際に、その後に起こりうる状態連鎖を解剖構造物のタイプの違い(管状構造物・袋状構造物など)に基づいて導出するアルゴリズム)により知識補完を行いオントロジーと連携される手法について開発を行った。 本年度は、排尿関連の異常に対象を絞り、これまでの手法によっても補うことが困難な機序推論に関する知識について、薬理学専門書並びに独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が公開している薬剤添付文書から知識抽出(血圧, 血中カリウム・カルシウム・ナトリウム・ビタミンD・リンの上昇/低下の作用を引き起こす薬剤)について知識抽出を行い、これまでのデータベースに追加すると共に、慢性腎臓病における異常状態連鎖を記述したオントロジーとの連携を行った。結果として排尿関連異常(無尿、多尿、頻尿、尿閉、尿量低下など)について、解剖学的メカニズム(筋収縮/弛緩)と腎臓病の病態生理メカニズムの両面から、因果連鎖を逆向きに辿った推論機構によって原因の可能性がある薬剤とその薬力学的機序について導出する手法を開発した。得られた研究成果は今後発表予定である。
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