研究課題
交付申請書にある「研究の目的」ならびに「研究実施計画」に照らし合わせた研究の成果について、その具体的内容、意義及び重要性等について以下報告する。ヒト脳脊髄液(cerebrospinal fluid以下CSF)及び脳動脈組織材料の採取、及び検査法の精度向上を基礎として本研究が成り立つ。1)平成26年度に試みた、検査の質即ち感受性及び特異性向上の実績を受け継続して行ったところ、タンパク質量にして30microgramが正常ヒトCSFを用いた場合のプロテアーゼ活性検出下限とみられていたが、精度向上に励んだ結果、事例・臓器別に量的な比較検討が可能なまでに検出感度を上げることに成功した。2)検査法汎用化に向けて検査コストを抑える試みは不可避であるが、平成26年度に法医解剖事例の病理組織学的検索で「組織材料の集中化」を図り、tissue array的手法で剖検1体あたり血管組織を含む平均して約15臓器・組織に及ぶ検体をマイクロカセット3個程度に収めることに成功した他、ゼラチンザイモグラフィーでは界面活性剤や基質に用いるゼラチンの代替品、さらには平成27年度には既製品であるプレキャストゲルとの比較検討も行った。3)遺伝子改変マウスを用いた解析は、26-27年度にヒト組織材料から得られたプロテアーゼ活性の知見を元に、血管組織、血清及びCSFをヒト材料に準じた条件でデータを蓄積する。使用可能な遺伝子改変マウスはLAT mutant(自己免疫疾患モデルマウスとして共同研究、IgG4関連疾患の解析の一環として検討中)などがあるが、遺伝子改変を行うことなく血小板活性をマウスの体内外で制御することが可能で、血液中の因子である血小板の有無をCSFと血清との間の大きな違いの一つとして捉えるならば、論文発表に至ったThrombosis Research(Zuka M 筆頭著者同等2016年)の実績は大きな成果といえる。
2: おおむね順調に進展している
「研究の目的」の達成度について、以下、自己点検による評価を行う。<平成26年度>ヒトCSF及び組織材料採取、及び検査法そのものの精度向上に努めた。ヒト脳血管(動脈)組織は複数の場所を定め(前後交通動脈、左右中大脳動脈及び脳底動脈)、内因性急死例を中心に対照としての冠動脈、大動脈及び総頸動脈と共に採取された。<平成27年度>日常業務としての法医解剖事例数が前年度の約1.4倍に達し、死因・病変の内訳もほぼ同様(虚血性心疾患年間5例;脳動脈瘤破裂同5例;血管性認知症同5~10例)であったため、「形態学的観察及び生化学的解析に必要な組織(CSFと共に)量が本研究に不足する事はない」と再確認できた。これらのHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色を中心とした標本作製ならびに観察は順調に行われている。前年度から持ち越された生化学的解析のうち、前項「研究概要」にある通りゼラチンザイモグラフィーの手技及び精度が一定の達したとみて、小動脈瘤の分布ならびに中枢神経が関わる器質性疾患の有無との対応付けが進みつつある。もう一方の生化学的解析の柱であるα-Klotho測定は平成26-27年度中に、実行できなかったため、最終年の課題として持ち越された。
1)CSF中のα-Klotho蛋白測定とあわせて、カルシウム濃度の測定が必要となる。2)CSF、血清及び組織のゼラチン分解活性と小動脈瘤の分布ならびに中枢神経が関わる器質性疾患の有無との対応付けを完成させる
共同研究者の移動と、あらたな研究協力者の参加が見込まれたため、新しい研究環境を早急に整える必要があった。それに伴い機器及び消耗品の購入について最初にたてた計画から若干の修正を施した。
本年度修正を加えた後の実験計画の実情に合わせて、最適な機器の選定を図る。また、生化学的解析の足りない部分を補うために消耗品の購入をする予定である。
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Thrombosis Research
巻: 140 Suppl 1 ページ: S27-36
10.1016/S0049-3848(16)30095-0