研究課題/領域番号 |
26460877
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小谷 泰一 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20330582)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 慢性肝障害 / 腎障害 / ミトコンドリア障害 / オートファジー / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
昨年度までの実験で、3, 5-diethoxycarbonyl-1, 4-dehydrocollidine(以下、DDC)という薬剤を食餌性に投与されることで慢性肝障害に陥ったBALB/cマウスでは、肝障害の高度進行にも拘わらず腎機能は極軽度障害されるのみで、病理組織学的検討でも腎臓には明瞭な形態異常は示さないことが明らかとなった。このことから、DDC投与マウスの腎臓は、所謂、sublethal tubular cell injuryと呼ばれる最近ヒトの腎障害の1つとして注目されている病態を示すことが確認された。そして、電子顕微鏡検査を加えることで、この腎機能悪化を防止する耐性機序の1つとしてオートファジーが関与している可能性も示した。 そこで、今年度はこのオートファジーが関与していることをさらに確認するために、オートファジー関連蛋白質のLC3-I, IIやp62をウェスタンブロッティング法や螢光免疫染色法を追加することで検証した。その結果、DDC投与群の腎臓近位尿細管では、オートファジーが活発に起きていることが明瞭に示された。また、オートファジーは、ミトコンドリア障害の反応としても発現することが知られているので電子顕微鏡を用いてDDC投与群の腎臓近位尿細管を調べたところ、コントロール群に比較してミトコンドリアの障害が高度であることがわかった。さらにミトコンドリアが障害されると酸化ストレスが誘導されることもわかっているので、免疫染色法を用いて酸化ストレスが生じていることを示すマーカーを2種類検索したところ、いずれのマーカーもDDC投与により上昇していることが確認された。以上のことからDDC投与群のマウスでは、ミトコンドリア障害とこれに続く酸化ストレスが惹起されるもののオートファジーが活発になることで腎機能が急激に進行することを抑制していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の「腎臓の病理形態学的変化の特定とその経時的推移の把握」のうち、「HE所見およびアポトーシス・壊死・再生の有無」と「障害尿細管の同定」の経時的変化については前年度におおむね達成していた。そして、今年度は免疫染色でこれらの形態変化を詳細に検証すると共に、前年度に開始するも残されていた「超微細構造変化の観察」を継続研究することで達成でき、ミトコンドリア異常や近位尿細管の微絨毛障害を明らかにすることができた。さらに、今年度以降の研究計画に含まれている「各種腎機能障害マーカーの測定と評価」のうち、「腎機能の評価」と「近位尿細管の障害および再吸収機能の評価」も血液および尿の検体を用いることで検討でき、sublethal tubular cell injuryと呼ばれる注目すべき所見を得ることができた。以上を総合的に鑑み、平成27年度終了時点においては研究計画に沿って本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究で、慢性肝障害に伴う腎臓の病理組織所見と機能障害は、薬剤投与に抵抗性を示し軽微な障害に留まることが明らかとなった。これは、sublethal tubular cell injury と呼ばれる腎機能障害に一致するもので、ヒトが敗血症時に意外に軽微な障害を示すことと類似していたので、この主旨を論文に纏め前年度中に発表した。この結果は慢性肝障害を有するヒトは感染症合併時に腎機能障害を進展させない何らかの機序を有していることを示唆している。このため、次にDDC投与マウスの腎臓が感染合併時にも抵抗性を示せば、このマウスはヒトにおける腎臓の感染抵抗性機序の解明に役立つモデルとなることが判明する。そこで、平成28年度は、DDC投与マウスの腎臓に対する内毒素LPSの容量依存的影響を腎機能障害マーカーを用いて検索し、DDC投与マウスの腎臓は感染合併時にも腎機能障害悪化を抑制する性質を発揮するかを検証する。そして、腎臓の感染に対する抵抗性機序の解明研究の端緒となることを目指す。
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