研究実績の概要 |
昨年度までにBALB/cマウスに3,5-diethoxycarbonyl-1,4-dehydrocollidine(以下、DDC)という薬剤を食餌性に投与することで誘導される慢性肝障害モデルマウスを用いて、慢性肝障害時における腎臓の病理組織学的変化と機能障害を検討した。そして、肝障害の高度進行にも拘わらず腎機能及び病理組織像は極軽度の障害に留まり、所謂、sublethal tubular cell injuryを示すことを確認した。さらに、電子顕微鏡検査、オートファジー及び酸化ストレスマーカーに対するウェスタンブロッティング法や螢光免疫染色法により、腎障害機序はミトコンドリア障害と酸化ストレスであり、オートファジー活性化が腎機能悪化を抑制していることを明らかにした。そして、学会及び査読付英文雑誌で報告した。 そこで、今年度は慢性肝障害に感染を併発したときの腎臓の病理病態学的変化を明らかにするために、DDC投与マウスに内毒素(以下、LPS)を投与し、DDC依存性に腎機能が悪化するかを検討した。DDCを2週間投与後にLPSを腹腔内投与し、通常餌対照群マウスと比較したところ、肝臓はDDC投与群が対照群より有意に障害されたが、腎臓ではDDC投与群の方がむしろ機能の悪化が抑制された。この結果と、LPS投与群の腎組織障害は対照群に比較して軽度であった初年度の結果、そしてこのモデルのオートファジー活性化による腎機能悪化抑制機序を総合すると、この肝障害モデルでは、オートファジーが活性化することで薬毒物に対する耐性が獲得され、感染症合併時でも腎機能の悪化を抑制することが示唆された。以上より、この慢性肝障害モデルマウスは、オートファジーによる薬毒物耐性獲得機序の解明や肝障害に併発する腎機能障害の進行を抑制する治療法の開発に有用であると判明したので、現在、論文投稿の準備をしている。
|