研究課題/領域番号 |
26460889
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
福井 謙二 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (60199180)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 法医学 / 年齢推定 / 放射性炭素分析 / 歯牙 |
研究実績の概要 |
これまで,法医学領域における年齢推定は,主に形態学的な加齢に伴う変化を指標とするものが使われてきている.すなわち,頭毛陰毛の色調の変化,頭蓋顔面骨の縫合の癒合度,長管骨骨梁の変化,下顎骨の状態(下顎枝の角度,歯槽骨の吸収),歯牙の状態(萌出の程度,治療本数,残存本数,咬耗摩耗の程度),その他動脈硬化の程度など,種々の所見から得られる情報を積み重ねて総合的に推定年齢を導き出すのが一般的な手法である. これに対して本研究は,歯牙の形成時に取り込まれた放射性炭素が,ターン・オーバーしないエナメル質や象牙質でそのまま保持されるため,それらの組織中の放射性炭素レベルは取り込んだ年代を反映することを利用し,個体の年齢推定に応用するものである. 特に,放射性炭素レベルは,死後経過時間や死体の置かれた環境からの影響を受けにくいため,死後変化が高度な死体にも適用可能な新たな年齢推定法として期待される. そこで,エナメル質の形成期間の短い第一大臼歯を対象試料としてして,放射性炭素分析に供するための試料処理について検討した.まず,量に限りのある法医実務試料を想定し,分析に必要な歯質量を検討した結果,エナメル質,象牙質共に100mgが必要十分量であることが分かった.さらに,歯牙・歯質の状態が結果に及ぼす影響について検討した.すなわち,法医解剖や死体検案時に遭遇する歯牙試料は,必ずしも状態が良いとは限らず,また,他の検査のために採取可能な本数も制限される場合が多い.そこで,う蝕による歯質の修飾,歯科治療に伴う歯科材料の影響,焼死体などでの熱や炭化による修飾などの影響を排除するための処理方法について検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,法医学的年齢推定を目的とした歯牙の放射性炭素レベルの分析で,1.分析対象歯牙・組織,2.分析に必要な歯質量,3.う蝕や歯科材料の影響,4.歯牙の置かれた環境の影響について検討し,5.総括として法医学の専門学会,専門雑誌に研究成果を発信するものである.その内,1,及び2については平成26~27年度で結果が得られた.さらに平成27年度で3についての検討を行う中で,う蝕や歯科治療に伴う歯科材料などの影響を排除するための試料処理方法の検討に時間を要し,研究の進展が予定よりやや遅れる結果となった.
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今後の研究の推進方策 |
歯牙の放射性炭素レベルの分析で,歯牙・歯質の状態が結果に及ぼす影響を検討していく.法医解剖や死体検案時に遭遇する歯牙試料は,必ずしも状態が良いとは限らず,また,他の検査のために採取可能な本数も制限される場合が多い.そこで,う蝕による歯質の修飾,歯科治療に伴う歯科材料の影響,焼死体などでの熱や炭化による修飾などの影響を排除したうえで,分析に供する必要最小量エナメル質,あるいは象牙質を確保するための処理方法について検討していく.総括として,法医実務への適用を踏まえた考察を加え,研究成果は随時,日本法医学会学術集会などで発表し,また,法医学関係の学術雑誌(Legal Medicineなど)に投稿していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
分析対象歯牙の中で健全歯でない試料について,う蝕や歯科治療に伴う歯科材料などの影響を排除するための試料処理方法の検討に時間を要した.そのため放射性炭素分析による年代測定の外部委託数が少なく,申請時の額を下回った.
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き,再現性のあるデータ採取のため,エナメル質では汚染の除去と有機質処理条件,及び象牙質では純度の高いコラーゲンの抽出条件を確立したうえで,主に放射性炭素分析による年代測定の外部委託費として翌年度に使用する.
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