DNAによる法医学的検査における個人識別には主に常染色体およびY染色体のSTR多型検査ならびにmtDNA多型検査が用いられている。しかし、犯罪現場等に遺留された血痕や唾液・精液斑についてDNA鑑定を行う場合、一個人に由来する試料なのかあるいは複数人に由来する試料なのか、DNA鑑定の結果からは判断が困難な場合がある。そこで、斑痕試料から細胞を採取し、DNA鑑定における精度を向上させるための方法について検討した。 当初、採取した細胞を直接DNA検査のためのPCR溶液に移し判定を試みたが、直接PCR検査法では一度の検査で採取した試料を消費してしまい,再検査が不可能であった。そこで,REPLI-g Single Cell Kitにより増幅したDNAによる各DNA型検査の能否を確認した。mtDNA では細胞数1個でも個人識別が可能な試料も認められた。常染色体STR型検査では、細胞数10個以下ではほとんどのalleleで判定は不可能であった。細胞数15、20および30個について検討したところ、個人識別には細胞数20個以上が必要と確認された。Y染色体STR型検査は細胞数1個では殆どのalleleは判定不可であった。5個または10個になると判定可能なalleleも半数近くは認められるようにはなったが、細胞数15個以上で安定した結果を示した。 これらの結果から、通常の法医鑑定に用いられる3種のDNA検査から結果を得るには、細胞数20個以上が必要と確認された。また、WGA法によるDNA増幅を行うことで、試料の保存ならびに再検査の可能性を示した。 本研究では,微量試料からの個人識別を目的に,顕微鏡下にてトランスファーした細胞からのDNA型判定法の開発を試み、微量な試料からの個人識別に新たな方法として,応用する事で識別能力の向上に貢献するものと思われる
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