研究実績の概要 |
最終年度である平成28年度は、ハプトグロビン血中濃度に関与する遺伝子多型、すなわちホモ接合体では全くハプトグロビンが合成されず無ハプトグロビン血症になり、ヘテロ接合体では低ハプトグロビン血症になる可能性が高いハプトグロビン欠失アリルについての解析をおこなった。 現在までの我々を含む研究室による集団遺伝学的解析の結果から、このハプトグロビン欠失アリルは、日本人を含む東アジア、東南アジアに限局して分布することが分かっている。このアリルがいつ頃生じたのか、その生成年代を推定するために、日本人サンプル208を含む250のハプトグロビン欠失アリルそれぞれについて、欠失点周囲の926 bpをPCR増幅し、ダイレクトシークエンス(サンガー法)により塩基配列を決定した。 その結果、今回調べた250のハプトグロビン欠失アリルの欠失点周囲の塩基配列の全てに多型が検出されなかった。すなわち、プライマーを除いた873 bp×250アリル = 218,250 bpの中に変異が1個も認められなかったということになる。一方、データベースに登録されているチンパンジーの相同領域の塩基配列とヒト配列を比較したところ、塩基置換が6か所に認められ、ヒトとチンパンジーが分岐した年代を650万年前であると仮定すると、遺伝子置換速度は5.3×10(-10)/サイト/年と推定される。したがってハプトグロビン欠失アリルは最尤法(系統樹の推定で、複数の候補の中でもっとも尤度の高い系統樹を選択する方法)で8700年以内に生成されたものと推定され、比較的最近生じたものと考えられた。
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