研究課題/領域番号 |
26460896
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研究機関 | 科学警察研究所 |
研究代表者 |
藤浪 良仁 科学警察研究所, 法科学第一部, 主任研究官 (30335632)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バイオテロ / MALDI / 高病原性微生物 |
研究実績の概要 |
病原細菌だけでなく鑑別が求められる人体および環境常在菌を含む主要な数百の標準細菌株と真菌11株に対して、1%TFAによる攪拌抽出法を用いて、各微生物株のMALDI-TOF MSデータを取得した。菌体の酸抽出物を用いて条件検討を行ったところ、各種マトリックスの検討では、測定領域m/z1000-10000においてCHCAが最適であった。細菌毒素の検出ではSAが最も良好な検出が可能であった。生育培地によるスペクトル変化や好気、微好気、嫌気によるスペクトル変化も一部細菌等で観察された。 炭疽菌に関しては、BHI寒天培地とそれに10%羊血液を添加したものを比較したところ、血液を添加することで、特異ピークの増加が観察された。しかし、好気・微好気・嫌気培養でスペクトル変化を観察したところ、測定領域内に特徴的な変化は観察されなかった。さらに炭疽菌PasteurII株の主な病原性の莢膜形成及び毒素をコードする二つのプラスミドが脱落した株のスペクトルを親株と比較したところ、測定領域内に特徴的な変化は観察されなかった。 炭疽菌の芽胞型に関しては、炭疽菌の栄養型そして同属近縁種のセレウス菌芽胞型とMALDI-TOF MSデータを比較した。その結果、炭疽菌栄養型のMALDI-TOF MSは攪拌抽出法よりもビーズ破砕抽出法の方が良好なスペクトルが得られた。炭疽菌芽胞型は攪拌抽出法では全く特徴ピークを検出出来なかったが、ビーズ破砕抽出法からは良好なスペクトルが得られ、既にDybwadらによって報告された炭疽菌芽胞に特異なm/z9735も検出された。種々の生育培地で生育した炭疽菌栄養型からは、芽胞の特徴ピークに近似するピークは観察されなかった。鑑別困難な同属近縁種のセレウス菌芽胞から炭疽菌芽胞の特徴ピークは観察されず、ビーズ破砕法により迅速かつ容易にセレウス菌芽胞と炭疽菌芽胞が識別出来る可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
炭疽菌栄養型のMALDI-TOF MSは、攪拌抽出法よりもビーズ破砕抽出法の方が良好なスペクトルが得られた。炭疽菌芽胞型のMALDI-TOF MSは、攪拌抽出法では全く特徴ピークを検出出来なかったが、ビーズ破砕抽出法からは、良好なスペクトルが得られた。炭疽菌以外にも、数百の生育培細菌株と真菌は11株のデータが生育培地の種類・培養温度・培養時間の組み合わせごとにMALDI-TOF MSのデータが得られた。しかし細菌の中でも、同属内でも生育状況が異なるなど取扱いが予想以上に困難であり、時間と労力を予想以上に費やした。ウイルスの代表としてバクテリオファージで検討しているが、培養は成功しているものの、その後の精製にまで至っていない。バクテリオファージで目処が立たない状態だったので、ヒトのウイルスの購入まで至らなかった。またその他アメーバ等の原生生物もまだ未購入である。
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今後の研究の推進方策 |
混入物の特異的マススペクトルパターンに関する研究を行う。微生物の保護剤単独のマスデータを取得し、微生物に保護剤を添加し剤形を有した状態の生物剤のマススペクトルパターンを取得する。製造方法の影響を検討するために、微生物の栄養源として異なる培地を使用した時の微生物培養液の代謝産物を含めたマススペクトルパターンを比較する。また既成の細菌用培地など使用せずに、微生物の栄養源として一般流通する食材を使用した時の微生物培養液のマススペクトルパターンを比較する。高病原性微生物は感染して動物細胞を栄養源として増殖するため、動物細胞株を使用した時の微生物培養液のマススペクトルパターンを比較し、感染細胞側の特異的マススペクトルパターンが得られるか検討する。動物細胞株は癌細胞であるため、癌化していない初代培養細胞において分離した病原微生物の特異的マススペクトルパターンを取得し、初代培養細胞において感染細胞側の特異的マススペクトルパターンが得られるか検討する。病原微生物はマクロファージの様な食細胞の細胞内でさえ増殖する能力を有するため、これら細胞内の病原微生物を検出出来るかを検討する。従来微生物の同定に用いられている培養法や遺伝子による同定方法との組み合わせを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
主要な数百の標準細菌株以外にも真菌11株はのデータを取得した。また炭疽菌に関しては、芽胞型を鑑別対象の同属近縁種のセレウス菌と共に作製し比較検討した。しかしウイルスの代表としてバクテリオファージで検討し培養は成功しているが、その後の精製で分離が成功していない。バクテリオファージで目処が立たない状態だったので、ヒトのウイルスとそのウイルスの増殖に使用する宿主の細胞の購入まで至らなかった。病原性アメーバ等のその他微生物も同様に購入に至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は動物細胞中に感染した微生物を分離しMALDI-TOF MSデータを取得することを計画しているので、遅れているヒトのウイルスおよびその宿主細胞や病原性アメーバ等のデータ取得も平行して行うことを予定している。次年度使用額は主に昨年度未購入の各種微生物の購入費に使用する予定である。
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