研究課題/領域番号 |
26460906
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
谷口 学 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教室技術職員 (30397707)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 東洋医学 / 感覚器 / 脳・神経 / 細胞機能形態学 |
研究実績の概要 |
東洋医学においては、鍼電気刺激が、耳鳴りや難聴の自覚症状の改善に効果があることが多数報告されている (Wang k et al. Comlement Ther Med. 2010; 18(6): 249-55.)。しかしながら、鍼電気刺激の聴力改善の作用機序(分子メカニズム)については、全く明らかにされていない。申請者らは、進行性難聴を示すp75ノックアウトマウスを用いて、鍼電気刺激により1)聴力が減退せず維持されること、2)外有毛細胞及びラセン神経節細胞の細胞数の減少が抑制されること、3)神経節細胞においてtrks受容体が発現増強すること、の3点について報告してきた(Maeda T et al. Acupunct Med. published on line 2013; 18)。そこで本研究では、p75ノックアウトマウスにおける鍼電気刺激による聴力維持の作用機序について、trks受容体経路及び外有毛細胞に対する遠心性抑制経路の観点からその機能を明らかにする。 27年度においては、鍼電気刺激の聴力改善効果が遠心性抑制経路に見いだせるかどうかについて組織学的な検討を行った。その結果、6ヶ月令のp75ノックアウトマウスにおいては、外有毛細胞の脱落及びシナプスの脱落が多く認められた。これに対して難聴の進行が始まる2ヶ月令より4ヶ月間、鍼電気刺激を行ったマウスでは外有毛細胞に対する遠心性抑制経路のシナプスの異常は認められなかった。以上のことは加齢による遠心性経路の破綻が、鍼電気刺激により回復していることを意味する。28年度においては、鍼電気刺激の聴力維持効果をtrks受容体経路及び遠心性抑制経路に着目して、より詳細な検討をおこなうことを視野にいれて、引き続きp75ノックアウトマウスの針電気刺激のモデルマウスの作製及び組織学的な検討を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度においては、本研究に使用するp75ノックアウトマウス(B6.129S-4-Ngfr<tm1Jae>/J )系統の繁殖及びこれらのマウスを用いて組織学的な実験を行った。申請者らは、既にこのマウスが、内耳の有毛細胞や蝸牛神経節細胞の変性及び細胞死により、4ヶ月令より徐々に難聴が進行し、6ヶ月令でほぼ聾になることを明らかにしている。本年度は、加齢による進行性難聴を示すp75ノックアウトマウスに対する鍼電気刺激の聴力改善効果が遠心性抑制経路に見いだせるかどうかについて組織学的な検討を行った。その結果、3ヶ月令のp75ノックアウトマウスにおいては、外有毛細胞の脱落及びシナプスの脱落は認められなかった。しかしながら、6ヶ月令のp75ノックアウトマウスにおいては、外有毛細胞の脱落及びシナプスの脱落が多く認められた。これに対して難聴の進行が始まる2ヶ月令より4ヶ月間、鍼電気刺激を行ったマウスでは外有毛細胞に対する遠心性抑制経路のシナプスにおいて異常は認められなかった。以上のことは加齢による遠心性経路の破綻が鍼電気刺激により回復していることを意味する。これらの成果は、鍼電気刺激の聴力維持効果が、遠心性神経による外有毛細胞の調整機構を介して作用している可能性を示唆しており、今後、その機序を詳細に検討していく上で基本的な要件を達成したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
28年度においては、引き続きp75ノックアウトマウスの針電気刺激のモデルマウスの作製を行い、鍼電気刺激の聴力維持効果について、trks受容体経路及び遠心性抑制経路に着目してより詳細な組織学的な検討をおこなう予定である。特に、p75ノックアウトマウスの加齢における外有毛細胞に対する遠心性抑制経路のシナプス終末の変性過程がいつどのように起こるかについて難聴が進行する4ヶ月令のモデルマウスを用いて詳細に検討を行う。 またこのような加齢による遠心性経路の破綻が、EAによりどのように回復しているかについて詳細に検討を加える。遠心性線維(オリーブ核蝸牛神経束)が上オリーブ核から外有毛細胞にシナプスを形成していることより、これらの細胞におけるEAの効果についても合わせて検討する。以上、鍼電気刺激が遠心性神経による外有毛細胞の調整機構に与える影響を明らかにすることで老人性難聴のメカニズム解明に迫る。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度においては、本研究に使用するp75ノックアウトマウス(B6.129S-4-Ngfr<tm1Jae>/J )系統の繁殖及びこれらのマウスを用いて組織学的な実験を行った。しかしながら、研究に必要十分なマウスの個体数を得るために、繁殖の時間を要したこと、そのため組織学的な検討に関して同マウスを用いた実験を行えないことがあった。以上のことが次年度使用額が生じた理由としてあげられる。但し、すでに繁殖は、うまくいっており次年度には当初予定通りの個体数にて組織学的な実験が遂行できると考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、進行性難聴のモデルマウスを作製するとともに、鍼電気刺激の聴力維持効果とラセン神経節細胞に発現増強するtrks受容体の役割およびそのリガンドの発現とその局在を解析し、鍼電気刺激によるtrks受容体とリガンドの相互作用についての検討を行っていく予定である。また、鍼電気刺激の聴力維持効果について遠心性抑制経路に着目してより詳細な組織学的な検討をおこなう予定である。以上の組織学的検討を網羅的に行うにあたり必要な抗体の購入に使用する、また進行性難聴のモデル作製において必要な消耗品の購入においても使用予定である。
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