研究実績の概要 |
本年度は、免疫療法と抗がん剤とを併用した「複合的免疫療法」開発の基盤となるデータの蓄積を目的に、抗がん剤投与時のがん細胞におけるPD-L1発現の変化をヒト膵癌細胞株で検討した. ヒト膵癌細胞株であるMIA PaCA-2, AsPC-1,マウス膵癌細胞株であるPan02を使用した.細胞を,GEM, paclitaxel(PTX),5-FUを添加し37℃で24-72時間培養した後に,PD-L1発現をFCMおよびqRT-PCRで評価した.FCMでは全ての抗癌剤と癌細胞株の組み合わせで,抗癌剤刺激時にPD-L1発現の増強を認めた.一方,qRT-PCRについては,AsPC-1とPan02では全ての抗癌剤でPD-L1発現が増強したが,MIA PaCA-2にGEM・PTXで刺激を行った際にはmRNAレベルでのPD-L1発現は変化しなかった.次に,AsPC-1を抗癌剤(GEM,PTX,5-FU)で刺激を行い,24-48時間後に細胞を回収しSTAT1およびリン酸化STAT1の蛋白発現をwestern blot(WB)で解析したところ,全ての抗癌剤刺激でSTAT1のリン酸化は亢進した.全ての抗癌剤でJAK2阻害薬を添加した際には,濃度依存性にPD-L1発現の減弱が見られた.特に高濃度のJAK2阻害薬存在下では,抗癌剤刺激によるPD-L1発現増強はほぼキャンセルされた.以上の結果より、膵癌細胞株への抗癌剤刺激により、癌細胞のPD-L1発現は増強することが確認され、この抗癌剤刺激によるPD-L1発現の増強はJAK/STAT経路を介していることが示された。これらの結果は、抗がん剤と免疫細胞療法を併用する際に、免疫チェックポイント阻害剤を併用することで、細胞療法の抗腫瘍効果増強が図れることを理論的に示唆する結果で有り、有効な複合的免疫療法開発のための基盤的データとなると考えている。
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