本研究課題のこれまでの成果として我々は、漢方方剤「香蘇散」が社会的敗北ストレス (CSDS) 負荷で誘発される脳内の炎症・抗炎症バランス異常を正常化させることにより、抗うつ様効果を発揮することを明らかにしている。しかし、これはCSDS負荷と同時に香蘇散投与を行った時の効果、則ち香蘇散の予防的効果の意味合いが強い。そこで本年度は、同モデルマウスを用いて香蘇散の治療効果についての検討を行った。また、香蘇散の予防的効果がうつの再燃・再発の防止効果にまで及ぶかどうかについての検討も行った。以下に得られた成果の概略を示す。 1. CSDS誘発うつ様行動に対する香蘇散の治療効果: CSDS (1日5分間、5日間) 負荷によってうつ様行動を示したマウスのみに香蘇散の経口投与を11日間行った。しかし、香蘇散投与による抗うつ様効果は認められなかった。 2. うつの再燃・再発に対する香蘇散の防止効果: CSDS (1日5分間、5日間) 負荷によってうつ様行動を示したマウスのみに香蘇散又は水を24日間経口投与した後、うつ様行動が消失したマウスを選別した。それらのマウスに再びストレスを単回 (5分間) 負荷し、うつ様行動の再燃・再発を評価した。その結果、水投与群では再びうつ様行動が誘導されたのに対して、香蘇散投与群では誘導されなかった。また、既存の抗うつ薬であるミルナシプランではうつ様行動の再燃・再発に対して防止効果は認められなかった。 以上の結果から、香蘇散はCSDS負荷により誘発されたうつ様行動に対する治療効果は期待できないものの、うつの再燃・再発に対する防止効果は既存の抗うつ薬より期待できる可能性が示された。
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