研究課題/領域番号 |
26460919
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
永井 隆之 北里大学, 感染制御科学府, 准教授 (00172487)
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研究分担者 |
清原 寛章 北里大学, 感染制御科学府, 教授 (70161601)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ウィルス / 感染症 / 薬学 / 薬理学 / 東洋医学 / インフルエンザ / 瀉白散 / 肺炎 |
研究実績の概要 |
漢方方剤「瀉白散」のウイルス性気道炎症に対する作用を検討するため、BALB/cマウス(雌性、8週齢)にpoly(I:C)を25 μg/25 μL/dayの用量で3日間連続で経鼻投与し、瀉白散の煎剤をpoly(I:C)投与前に経口投与した。Poly(I:C)最終投与6時間後に肺を採取し、real-time PCR法によりmRNA発現量を解析した。その結果、瀉白散煎剤の投与により、poly(I:C)投与によって増加した炎症性ケモカインであるIP-10 (CXCL10)、炎症性サイトカインであるTNF-α、IL-1β、IFN-γ mRNAの発現量が減少したことから、瀉白散煎剤がウイルス性気道炎症に対して抑制作用を有することが示唆された。また、瀉白散煎剤は肺においてpoly(I:C)の投与により増加した好中球のマーカーであるGR-1、好中球に対するケモカインであるMIP-2α (CXCL2)、好中球の産生するタンパク質分解酵素であるmetalloproteinase-9のmRNA発現量を減少させたことから、瀉白散煎剤はウイルス性気道炎症において肺への好中球の浸潤による組織破壊を抑制する可能性が示唆された。 ヒト気道上皮細胞株BEAS-2B細胞に瀉白散煎剤を添加すると、poly(I:C) (1 μg/mL)の添加によって増加したIP-10のmRNA発現量を濃度依存的に減少させた。また、瀉白散の各構成生薬(地骨皮、桑白皮、甘草、梗米)の煎液について同様に検討したところ、地骨皮、桑白皮、甘草を添加したときにIP-10のmRNA発現量が減少した。これらの結果より、BEAS-2B細胞における瀉白散煎剤のIP-10 mRNA発現量に対する減少作用に構成生薬3種が関与していることが示唆された。 以上、本年度の成果により瀉白散煎剤がウイルス性気道炎症に対して抑制作用を有することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の検討において、瀉白散の煎剤がウイルス性気道炎症に対して抑制作用を示すことを同モデルマウスを用いたin vivoの件で明らかに出来たこと、また、瀉白散煎剤の気道炎症抑制作用の作用機序に肺への好中球の浸潤の抑制が関与している可能性を示すことが出来たこと、さらに、瀉白散煎剤中の活性成分の解明の第1段階として瀉白散の構成生薬のうち地骨皮、桑白皮、甘草の煎液に気道上皮培養細胞を用いたin vitroの系でpoly(I:C)添加によるIP-10 mRNA発現量の増加を抑制する作用を見出すことが出来たことことから、概ね当初の計画通りに検討が進展していると判断出来るためである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、poly(I:C)を経鼻投与して作製したウイルス性気道炎症モデルマウスに瀉白散の煎剤を経口投与し、DNAマイクロアレイ法を用いて肺における免疫関連因子のmRNA発現量の変化を網羅的に解析することにより、瀉白散煎剤の気道炎症に対する抑制作用のメカニズムをさらに検討する。また、瀉白散煎剤中の活性成分を明らかにするため、ヒト気道上皮細胞株BEAS-2B細胞へのpoly(I:C)の添加によって増加の認められたIP-10 mRNA発現量に対して減少作用を示した瀉白散の構成生薬3種(地骨皮、桑白皮、甘草)の含有成分及び体内代謝産物について、同実験法を用いてIP-10 mRNA発現量に対する減少作用を検討する。培養細胞を用いた系で活性の認められた含有成分または体内代謝産物については、ウイルス性気道炎症モデルマウスに経口投与し、肺における免疫関連因子のmRNA発現量に対する影響をreal-time PCR法及びDNAマイクロアレイ法により検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Poly(I:C)を経鼻投与して作製したウイルス性気道炎症モデルマウスの肺における免疫関連因子のmRNA発現量に対する瀉白散煎剤の影響を網羅的に解析する目的で、業者への委託によりDNAマイクロアレイを行うべく肺から調製したtotal RNAの分析を行ったが、RNAが分解していたため、再度動物実験から行わなければならなくなり、年度内にDNAマイクロアレイ解析が出来なかった。 また、同モデルマウスの肺におけるmRNA発現量に対する瀉白散煎剤の影響の検討により発現量に変化の認められた因子についてELISA法でのタンパク質発現量の解析を計画していたが、mRNA発現量に変化が認められるタイミングとタンパク質発現量に変化が認められるタイミングがずれていたため、それぞれ別個の動物実験をする必要が生じた。そのため、年度内にELISA法によるタンパク質発現量に対する瀉白散煎剤の影響の検討が出来なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
免疫関連因子タンパク質測定用のELISAキット購入代金の一部、並びにDNAマイクロアレイ解析代金として使用する予定である。
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