研究実績の概要 |
瀉白散は肺炎、気管支炎等を適応症とする漢方方剤である。昨年度までに、ウイルス由来2本鎖RNAを認識するToll-like receptor 3のリガンドであるPoly(I:C)を投与して作製した気道炎症モデルマウスに瀉白散煎剤(SHS)を経口投与すると、肺での炎症関連因子の発現が改善し、抗炎症作用を有することを示した。また、炎症細胞の一種である好中球の肺への集積が制御される可能性を示した。SHSの作用機序のひとつとして、経口投与後に含有成分やその腸内細菌代謝物が腸管から吸収され、肺組織に分布して作用する経路が想定される。そこで今年度は、インフルエンザウイルスに対する第一の監視機構である気道上皮細胞へのSHSや含有成分の直接作用について検討を行った。 ヒト気道上皮細胞株であるBEAS-2B細胞にPoly(I:C)を添加することで炎症を惹起させ、30分後にSHSを添加し、Poly(I:C)添加から3時間後に細胞を回収した。細胞についてリアルタイムPCR法でmRNA発現量を測定したところ、Poly(I:C)により増加した炎症性ケモカインのIP-10,CXCL8,CXCL1,CXCL2、炎症性サイトカインのIL-6のmRNA発現量がSHSにより有意に減少した。また、Poly(I:C)添加から6時間後の培養上清についてELISA法で炎症性タンパク質を測定したところ、SHSの添加によりIP-10,IL-6,CXCL1産生量の有意な低下が認められた。SHSの含有成分及び代謝物についても同様の検討を行ったところ、Poly(I:C)添加3時間後の細胞においてグリチルレチン酸でIP-10, IL-1βの、リクイリチゲニン(LG)でIP-10, IL-1β, TNF-αの、モルシン(MOR)でIP-10のmRNA発現量の有意な減少が認められた。さらに、LGとMORの2成分を同時にBEAS-2B細胞に添加したところ、個々の成分では変化が認められなかったCXCL1 mRNA発現量の有意な減少が観察された。以上の結果より、SHSの作用機序として腸管からの吸収を経由する経路が示唆された。
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