研究実績の概要 |
我々は、これまでの研究で、軟骨細胞代謝にレニンーアンジオテンシン(RA)系が関与していることを示唆してきた。すなわち、マウス骨折モデルにおける骨折治癒過程の仮骨形成において、アンジオテンシンII(AII)の持続投与が仮骨軟骨部の増大を示し、またアンジオテンシン受容体拮抗剤でこの影響は阻害され、ヒドララジンにより阻害されないことから、血圧の影響ではなく、AIIそのものの作用が考えられた。すなわち、増殖軟骨細胞から肥大軟骨細胞への分化を促進する可能性を示した。本課題研究ではさらに詳細な検討を加えた。軟骨細胞にAII受容体(ATR1)が発現していることを示し、また、肥大軟骨細胞への分化促進マーカーであるSOX9, MMP-13, Ihh, type X collagenの発現が AII投与により亢進することをRT-PCR, 免疫染色法にて示した。さらに、骨折治癒過程において肥大軟骨細胞死(アポトーシス)が骨化を促進するが、AII投与によりアポトーシスは抑制され、骨折治癒が遅延した。アポトーシス抑制はbcl-2, bcl-xLの発現抑制が関与していることも示した。これらの影響はアンジオテンシン受容体拮抗剤にて阻害され、血圧上昇を介さないAIIの直接的な作用であると考えられた。 変形性関節症(OA)における軟骨磨耗は、静止軟骨細胞がなんらかの刺激(物理的刺激)による肥大軟骨細胞への分化促進、肥大軟細胞から分泌されるMMPによる軟骨変性であることから、上記よりAIIの関与が示唆され、AIIの阻害により、OAの病態進展抑制に寄与しうる可能性が示された。OAモデル動物の作成が必要であるが、関節靭帯切断による関節不動化モデルでOAが作成できることも確認できた。
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