本研究計画では、漢方薬の麻黄湯が細胞のオートファジーに与える影響を分子レベルで探索し、麻黄湯による宿主のオートファジー機能強化を介した、ウイルス感染防御メカニズムを明らかにすることを目的とした。これまで、インフルエンザウイルスの感染によりオートファジーの成熟が阻害されていること、麻黄湯の添加によりオートファジーの成熟が正常化することがわかった。また、インフルエンザウイルスは宿主の細胞にアポトーシスを誘導すること、このとき、麻黄湯によりオートファジーを正常化させると、細胞のアポトーシスが抑制されることがわかった。 麻黄湯の抗インフルエンザ作用が、細胞にウイルスを添加した直後におこることがわかり、麻黄湯がインフルエンザウイルス生活環のごく初期に作用していることが示唆れていたが、平成29年度はそのメカニズムとして、エンドゾーム酸性化の抑制することにより、ウイルスが脱核できないためであることが証明された。つまり、麻黄湯を作用させると、ウイルスが脱核できず、エンドゾーム内に長期間残っていることが蛍光顕微鏡により確かめられた。この結果は論文化し、2017年のEvidence-based Complementary and Alternative Medicineに掲載された。 平成29年度はそのメカニズムとしてエンドゾーム膜内のVacuolar-type ATPaseの活性を阻害していることを考えて実験を行ったが、はっきりした結果を得ることができなかった。さらに、エンドゾーム内に残ったウイルスがその後にどうなるかをということに対して解析した。最も考えられる可能性としてエンドゾームがエキソゾームとなって細胞外に排出されるかどうかも解析したが、それは否定的であった。
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