胃癌腹膜播種の患者から腹水を採取して、短期間培養を行うことにより、白血球や中皮細胞などの正常細胞を除き、胃癌細胞を抽出することに成功した。化学療法を行う経過中に、繰り返し腹水を採取して胃癌細胞を得た。化学療法耐性となった後で採取した胃癌細胞は化学療法薬耐性の変化を有すると考えられた。 一方で胃癌培養細胞株AGSについて、抗がん薬存在下に長期間培養して薬剤耐性細胞株を樹立した。様々な濃度の抗がん薬存在下で培養することによって薬物耐性化を確認した。 腹水由来細胞および薬剤耐性AGS細胞からRNAとDNAを抽出し、cDNAマイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析とメチル化アレイによるDNAメチル化解析を行った。その結果、胃癌のオキサリプラチン耐性に関与する可能性が考えられる複数の遺伝子変化を抽出した。それらの遺伝子には、過去に腫瘍抑制遺伝子の候補と報告されているものが含まれていた。 腹水中がん細胞において、CapeOX後に、702遺伝子の発現が上昇し、530遺伝子の発現が低下した。発現が低下した遺伝子のパスウェイ解析では、60遺伝子が”Signaling by G protein-coupled receptor (GPCR)”、31遺伝子が”GPCR ligand binding”と関連がみられた。またNPHS1、FXYD1、WISP1、FMO1はCapeOX後に発現が低下かつメチル化が増加した。CapeOX後の腹水中がん細胞、フルオロウラシル耐性AGS細胞、オキサリプラチン耐性AGS細胞のいずれにおいても発現が低下した遺伝子のうち、PCDH20 および DEFB4A は腫瘍抑制遺伝子と報告されている。AGS細胞を脱メチル化剤で処理すると PCDH20 の発現は増加した。
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