研究課題/領域番号 |
26460937
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
石村 典久 島根大学, 医学部, 講師 (40346383)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バレット食道 / シグナル伝達 / Notch / Cdx2 |
研究実績の概要 |
Notchシグナルは消化管の細胞分化の決定に重要な分子シグナルである。私共はこれまでに転写因子であるCdx2とNotchシグナルの相互作用が、バレット食道の形成に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。今回は、バレット食道を背景とする腺癌の発生におけるNotchシグナルとCdx2の関連について評価し、発癌・進展に関わるNotchシグナルの役割を明らかにすることを目的として、本年度は以下の成果を得た。 ①バレット食道・dysplasia・腺癌組織におけるNotchシグナルおよびCdx2の発現変化 a. ヒト生検・手術標本を用いた検討:免疫組織染色法を用いて、上記の各段階におけるNotch 1, Hes-1, ATOH1, Cdx2の発現状況を評価した。バレット食道では、Hes-1の発現低下およびATOH1・Cdx2の発現亢進が見られるが、dysplasia・腺癌と進展するとHes-1の発現の亢進が見られる一方、ATOH1とCdx2の発現低下を認めた。この傾向は低分化の腺癌でより顕著に認めた。 b. バレット食道モデルラットでの検討:ラット食道空腸吻合モデル(Levratモデル)を作成した際に得られた標本を用いて、上記発現を免疫組織染色で評価した。作成後、24~32週までは、Cdx2の発現亢進とHes-1の発現低下が見られたが、48週ではHes-1の発現亢進およびCdx2発現低下を認めた。 ②Notchシグナル発現変化による増殖関連因子の発現調節 増殖抑制因子P27kip1の発現がNotchシグナルによって変化することを培養細胞を用いて評価した。バレット食道細胞株(CP-A)・バレット腺癌細胞株(OE-19・33)を用いてHes-1・Cdx2の発現を評価すると、腺癌細胞株ではHes-1の発現亢進・Cdx2発現低下を認め、P27kip1の発現も著明に低下していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで私共は、バレット食道の形成機序に着目し、扁平上皮からバレット食道(腸上皮化生)を形成する段階において胆汁酸刺激によるCdx2の発現亢進が、Notchシグナルの下流のHes-1の発現を調節し、腸上皮化生に重要な役割を果たしていることを示した。さらにNotchリガンドであるDll1が細胞内でのシグナル調節因子としても作用していることを明らかにしてきた。今回は、Barrett食道から腺癌の発癌機序におけるNotchシグナルとCdx2の関連を明らかにすることを目的としている。その第一段階として、腺癌組織および培養細胞・モデル動物におけるNotchシグナルとCdx2の発現状況を確認した。その結果、興味深いことに、Barrett食道で見られたCdx2発現亢進とHes-1の低下と逆に腺癌においては、Cdx2の発現が低下し、Hes-1の発現は亢進が見られた。また、分化度の低い癌において、この傾向は顕著であった。他の癌ではHes-1の発現亢進が、抗癌剤への抵抗性や予後と関連することが示されており、バレット食道腺癌においても、同様の状況が推測される。培養細胞においても、当初の予測通り、腺癌細胞においてHes-1の発現亢進とCdx2発現低下を確認し、増殖抑制因子であるP27kip1の発現低下をきたしている結果が得られた。これらの結果は、当初我々が予定していた実験計画をおおむね満たすものであるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
バレット食道から腺癌を発生する過程において、Notchシグナルの下流の因子であるHes-1の発現が亢進し、Cdx2およびP27kip1の発現の低下が見られる結果が得られた。Notchシグナルの阻害剤であるGamma secretase inhibitorを投与すると、Hes-1の低下が見られ、P27kip1の発現は亢進が見られることから、P27kip1の発現調節にHes-1の発現が関わっていることが予測されるものの、バレット食道ではHes-1がCdx2によって発現抑制されており、どの時点から、Hes-1の発現亢進を生じるかについては、不明である。培養細胞に胆汁酸を投与すると、Cdx2の発現は亢進し、その結果、Hes-1の抑制を生じるが、Cdx2 siRNAでCdx2の発現をブロックすると、胆汁酸刺激によってHes-1の発現の亢進を認めたものの、その変化は軽度であった。Cdx2 siRNA条件下で胆汁酸を加えることによる、細胞傷害が結果に影響している可能性があり、現在、条件設定(濃度・投与時間)の調節中である。胆汁酸による刺激は、バレット食道の形成のみならず、発癌においても重要な役割を果たしていることが推測されていることから、条件設定は慎重に行う必要がある。今後は、P27kip1の発現調節がNotch-Cdx2相互作用の中でどのように行われているかを、主に培養細胞を用いて明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に使用した免疫染色用の抗体および培養細胞を用いた実験に使用したsiRNA用試薬や阻害薬などの購入費用を計上していたが、当研究室に保有のものを使用するなどして、必要量が少なくなり、購入に要する費用が予定よりも少なくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は培養細胞を中心とした検討を行う予定であり、細胞内のシグナルを評価するための各種試薬(リコンビナントNotchリガンド・siRNA・発現ベクター用試薬・Western blot/PCR用試薬など)の購入費用に充てる予定である。
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