研究実績の概要 |
【目的】H. pylori(HP)除菌による胃癌抑制効果が世界的コンセンサスを得ようとしている。しかし胃癌が完全に抑制されることはなく、除菌後胃癌への対策が急務と考えられる。今回次世代シーケンサーを用いたHP除菌後胃癌およびHP除菌不成功でHP陽性胃癌の網羅的遺伝子解析を行い、除菌後胃癌発症に関わる癌遺伝子特定と除菌後胃癌危険因子の解析を目的とした。【検体と方法】大分大学医学部附属病院で内視鏡的切除を受けた除菌後胃癌5例(平均年齢65.0歳、男性4名女性1名)、HP陽性胃癌5例(平均年齢72.8歳、男性4名女性1名)を対象とした。パラフィンブロックよりDNAを抽出し、各症例において次世代シーケンサーIon torent を用い、パネルとしてIon AmpliSeq Cancer Panel (Life technologies)を用いて50種類の癌関連遺伝子のDNA変異解析を行った。 【結果】解析50遺伝子中HP陽性胃癌23,除菌後胃癌に16の変異を認めた。HP陽性胃癌のみに変異がみられた遺伝子は9個、除菌後胃癌のみは2個みられたがいずれも1例のみであった。STK11, TP53, FGFR3, PDGFRA, KDR, APC, CSF1R, FLT3はほぼ全ての例に変異が見られ特にTP53では最も多い変異を認めた。Hotspotの変異はHP陽性胃癌は10遺伝子17か所、除菌後胃癌は1か所のみであった。TP53は除菌後胃癌5例中10か所とHP陽性胃癌より多数のhotspot変異を認めた。PDGFRAはHP陽性胃癌5例すべてにhotspot変異を認めたが除菌後胃癌では認めなかった。 【結論】TP53をはじめ複数の癌関連遺伝子変異を認め、hotspotの変異はやや除菌後胃癌に少ない傾向にあったが、TP53では多数の変異がみられた。より多数例の解析により除菌後胃癌の標的遺伝子の追求となる可能性が示唆された。今後はより多数の症例集積、また遺伝子変異の集中しているTP53において慢性胃炎組織での除菌後変化をみることにより除菌後胃癌抑制のターゲットを絞る可能性を検討していく。
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