研究実績の概要 |
【目的】次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子解析によりH. pylori(HP)除菌後胃癌発症に関わる癌遺伝子の特定と除菌後胃癌危険因子解析を行った。 【方法】1988-2015年に大分大学医学部および関連施設にて発見された除菌後胃癌68症例77病変(除菌時平均年齢63.8 ±9.3)、およびHP 陽性胃癌151例を対象とした。性と年齢を一致させた各群10例を対象とした。次世代シーケンスはIon Proton™シーケンサー、Cancer Hotspot Panel v2 (ライフテクノロジーズ社)にて解析を行った。昨年より追加された症例の免疫組織化学を用いた臨床病理学的特徴解析を行った。 【結果】各サンプルtargetbase100倍のカバレッジ達成率は100%。Variant数は13-24個、hotspotのvariantは0-6個であった。APC,ATM, CSF2R, ERBB4, FGFR3, FLT3, KDR, PDGFRA, RET, STK11, TP53において80%以上の症例に変異を認めた。特にAPC exon 14 G>A T>A SNP、FGFR3 exon14 G>A T>T SNP, PDGFRA exon 18 C>T V>V SNP Hotspot, TP53 exon4 G>C G>A ,exon4 G>C G>G SNPに多い変異を認めた。Hospot変異は10遺伝子にて14か所見られた。PDGFRA exon 18 変異はHP陽性胃癌全例にみられたが除菌後胃癌では全く認めなかった。Hotspot変異はHP陽性胃癌に多い傾向を認めた。除菌後胃癌でMUC5AC, MUC6発現の増加による胃型形質の増加、腸上皮化生発現に関連するCDX2発現の低下による腸上皮化生化の阻害が認められ、またKi-67発現の低下がみられ除菌後胃癌でのslow growth化、胃型形質への転化が認められた。 【結論】除菌後胃癌群ではHP陽性胃癌と異なる臨床病理学的特徴が認められた。次世代シーケンス解析ではPDGFRA chr4 exon18のhotspot変異、またhotspot変異数に除菌後胃癌とHP陽性胃癌に差がみられ両群間の発癌におけるgeneticな相違が考慮された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次世代シーケンサーを用いた当初の除菌後胃癌、H. pylori陽性胃癌の遺伝子解析は進行している。またAPC, PDGFRA, TP53などの変異集中点の発見、PDGFRAのH. pylori陽性胃癌と除菌後胃癌の明確な差異をもつ変異点の発見が行えた。 除菌後胃癌症例の集積も順調に進んでおり、集積されたH. pylori除菌後胃癌症例数は68症例77病変と研究当初より約20症例も増加している。 臨床病理学的特徴解析の結果として、粘液形質の差異から除菌後胃癌においてMUC5AC, MUC6発現の増加による胃型形質の増加、腸上皮化生発現に関連するCDX2発現の低下による腸上皮化生化の阻害などが認められた。 遺伝子解析にて特に変異が集中している部分が見つかっており、これらを中心とした変異の解析を追加症例で行う予定にしており、現在追加の症例を用いた遺伝子解析の準備、また免疫組織化学的解析も進んでいる。 除菌後胃癌ではサイズが小さく、遺伝子解析のための十分な量の組織、DNA抽出が難しい症例も有り、症例増がはかどらない可能性もある。更に除菌後胃癌症例の集積に努めるとともに、少ない遺伝子で解析可能な重要遺伝子解析を先に進めることも考慮していく。
|
今後の研究の推進方策 |
現在当施設において集積されたH. pylori除菌後胃癌症例数は、68症例77病変(除菌時平均年齢63.8 ±9.3)と大幅に増加している。今後も追加集積されていく予定である。 これらの症例を用い、臨床背景および免疫組織化学的手法を用いた臨床病理学的特徴解析を追加集積していく。現在までMUC5AC, MUC6などの胃型粘液、腸上皮化に関連するCDX2発現の低下、Ki67 Labeling indx低下による腫瘍のslow growth化が認められており、追加症例での解析追加中である。 また今回の遺伝子解析にて特に遺伝子異常が認められた、APC, PDGFRA, TP53などの遺伝子にある程度標的を絞って追加した多数例での遺伝子異常解析の準備中であり、除菌後胃癌のH. pylori陽性胃癌とは異なる特徴、リスク因子の把握、また除菌後胃癌のジェネティックな発癌機序の解明に近づけたい。
|