研究課題/領域番号 |
26460942
|
研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
兒玉 雅明 大分大学, 福祉健康科学部, 教授 (20332893)
|
研究分担者 |
村上 和成 大分大学, 医学部, 教授 (00239485)
沖本 忠義 大分大学, 医学部, 講師 (90381037)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | H. pylori / gastric cancer / 次世代シーケンサー解析 / TP53 / PDGRA |
研究実績の概要 |
【目的】次世代シーケンサー解析を用いた網羅的遺伝子解析によりH. pylori除菌後胃癌発症に関わる癌遺伝子の特定と除菌後胃癌危険因子の解析を行った。 【方法】集積した除菌後胃癌は71例81病変となった。平成27年度まで高分化型の除菌後胃癌、H. pylori陽性胃癌各5例によりDNAを抽出。次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子解析を行った。平成28年度には低分化型胃癌の次世代シーケンサー解析を行った。 【結果】次世代シーケンス解析では、50遺伝子中21遺伝子に変異を認めた。 APC,ATM, CSF2R, ERBB4, FGFR3, FLT3, KDR, PDGFRA, RET, STK11, TP53において80%以上の症例に変異を認めた。PDGFRA chr4 exon18のhotspot変異はH. pylori陽性群全例にみられたが、除菌後胃癌は1例も認めず、また解析遺伝子中Hotspot変異はH. pylori陽性胃癌において多い傾向がみられ両群間の発癌におけるgeneticな相違が考慮された。 集積した除菌後胃癌症例中、進行癌症例、また低分化型胃癌症例も少なからず認められ、これらの解析を行う必要が考慮された。除菌後癌の深達度でSM以深は17例認められた。深達度M群およびSM以深群の比較では、除菌後経過観察の有無、腫瘍径、発生部位、形態、組織型に有意差を認め、除菌後における進行胃癌は早期胃癌と異なる発生の機序を有す可能性が示唆された。除菌後胃癌およびH. pylori陽性胃癌の進行低分化型胃癌の各5症例からDNAを抽出し、次世代シーケンサー解析を進めている。シーケンスデータを平成29年度前半に得る予定であり、この結果は除菌後胃癌高分化型、低分化型の発生機序の相違を明らかにし、除菌後胃癌高リスク因子の抽出、除菌後胃癌早期発見、予防に寄与すると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
集積できた除菌後胃癌は71例81病変となり、当初目標よりも多く、また更に集積が可能である。 はじめの高分化型胃癌のDNA抽出から次世代シーケンサー解析は、順調に新調した。次世代シーケンス解析では、50遺伝子中21遺伝子に変異を認め、特にPDGFRA chr4 exon18のhotspot変異はH. pylori陽性群全例にみられたが、除菌後胃癌は1例も認めず、また解析遺伝子中Hotspot変異はH. pylori陽性胃癌において多い傾向がみられ両群間の発癌におけるgeneticな相違が考慮された。このように除菌後胃癌特有の遺伝子異常が確認されている。しかし、除菌後胃癌において深達度SM以深に進行したものが17例も認められた。低分化型腺癌はこのうち11例認められ、漿膜側へ露出が見られた症例も存在した。腫瘍死を起こさないことが一番の目標で有り、これら低分化型胃癌の解析を28年度に行った。 臨床病理学的特性の解析は、順調に進み、除菌後進行癌では、除菌後経過観察の有無、腫瘍径、発生部位、形態、組織型に有意差を認めた。また免疫組織化学結果では、胃型形質の増加が認められ、腸型形質の抑制が考慮された。 しかし、次世代シーケンサー解析の対象とする低分化型除菌後胃癌の集積がかなり時間を要し、これが進捗状況の遅れの一因となった。 また、症例集積後、DNAを抽出し、解析に取りかかったが、パラフィン包埋ブロックから抽出したDNAの断片化が思ったよりも進行した症例が見られた。DNA抽出から再度やり直し、品質評価を繰り返したため、これも研究進捗の遅れとなっている。 現在は、いずれも次世代シーケンサー解析可能なDNA収量が確保され、現在解析を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
除菌後胃癌およびH. pylori陽性胃癌における進行、低分化型胃癌各症例の10%中性緩衝ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE)ブロックより10 μmの厚さで3-6枚薄切し、 QIAamp DNA FFPE Tissue Kit56404 (キアゲン)を用い同検体よりDNAの抽出を行った。 DNA濃度は291.3から661.2 mg/mlであり、断片化がややみられるものの、コントロールとして行ったβactinをプライマーとしたPCRでは、十分に増幅可能であった。 次世代シーケンスは、タカラバイオ株式会社、バイオメディカルセンターに委託、提供した資料を用い、品質検定を行い、シーケンスライブラリーを作製、 Ion Protonシーケンサー (ライフテクノロジーズ社)による高速シーケンス解析を開始している。シーケンスデータを平成29年度前半に得る予定である。 この結果、除菌後胃癌における早期、高分化型から進行、低分化型までの胃癌の網羅的遺伝子解析を行うことができ、高分化と低分化の比較、またH. pylori陽性胃癌との比較が可能である。これらからH. pylori除菌後胃癌における重要な遺伝子特異点の発見、除菌後胃癌発症のメカニズム解明をめざす。また臨床的、組織学的に除菌後胃癌の高危険群を抽出することで、全症例除菌時代に向け、除菌後胃癌の更なる抑制、また危険度に応じたスクリーニングを行うことで、的確な早期胃癌の発見、患者の負担軽減、医療経済への寄与が可能になると考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
除菌後胃癌中、低分化型胃癌の解析を28年度に行った。除菌後進行癌では、除菌後経過観察の有無、腫瘍径、発生部位、形態、組織型に有意差を認めた。また免疫組織化学結果では、胃型形質の増加が認められ、腸型形質の抑制が考慮された。 しかし、次世代シーケンサー解析の対象とする低分化型除菌後胃癌の集積がかなり時間を要した。またパラフィン包埋ブロックから抽出したDNAの断片化が思ったよりも進行した症例があり、DNA抽出から再度やり直し、品質評価を行ったため、これらが研進捗状況の遅れの一因となった。そのため、次世代シーケンサー解析に用いる予定の費用が今年度未使用となった。
|
次年度使用額の使用計画 |
現在、除菌後胃癌中、低分化型で進行癌症例5例と、H. pylori陽性低分化型胃癌5例からDNAを抽出し、次世代シーケンサー解析を開始している。平成29年度前半には、癌遺伝子50遺伝子の解析が完了予定、その後評価を行い、除菌後胃癌における低分化型、高分化型胃癌の特性解析を完了する予定である。 平成28年度に未使用であった次世代シーケンサー解析に用いる予定の費用は、解析終了する平成29年度前半に全額使用予定である。
|