研究課題
最近のゲノム研究の進展により,転写されたRNAの多くがタンパクに翻訳されないmiRNAを含む非コードRNA (non-coding RNA, ncRNA)であることが明らかになった.本研究では,最も高頻度に遺伝子変異が検出されているがん抑制遺伝子p53,およびそのファミリーによって制御される非コードRNAを同定し,機能解析へと展開する.さらに発現異常,遺伝子変異の有無,悪性度および治療効果との関連性を分析することで,胃癌,食道癌を中心とした消化管癌の新しい診断・治療予測システムを開発しようとするものである.平成26年度において以下の研究成果を上げた.1)miR-200ファミリーを介するp53によるCRKLの発現調節とがん進展における役割p53誘導性miRNA,miR-200b/200c/429の新規標的遺伝子CRKL (v-crk sarcoma virus CT10 oncogene homolog-like)を同定した.CRKL遺伝子の3’-UTRにmiR-200b/200c/429の結合配列を同定し,p53ファミリーが,この配列を介してCRKLの発現を抑制していることを明らかにした.臨床検体の解析から,CRKL遺伝子発現が予後不良と相関することをつきとめた.また,p53変異のある症例で有意にCRKLが発現上昇していた.CRKLの導入により,胃癌細胞株の増殖,浸潤,遊走能が上昇することを明らかにした.2)p53に制御される新規機能性RNAの同定miRNAマイクロアレイ,およびp53結合コンセンサス配列の全ゲノム網羅的解析より,19のp53誘導性miRNA候補を同定した.それらすべてについて,real-time RT-PCR法によりp53ファミリーによる発現誘導を確認したところ,14miRNAの強い転写誘導が認められた.
2: おおむね順調に進展している
miR-200ファミリーを介するp53によるCRKLの発現調節とがん進展における役割については,順調に解析が進み,タイトル「The CRKL oncogene is downregulated by p53 through miR-200s」として英文学術雑誌に投稿し,現在major revise中である.さらにp53誘導性miRNAの新規候補のいくつかについては,in silicoでの標的遺伝子の検索を行い,その発現解析に着手している.
p53ファミリーに制御されるmiRNA, ncRNAとその標的遺伝子はがん組織で発現が変化している可能性があり,予後,治療効果などと相関していることが推測される.研究は順調に進展しているので,これらの機能解析,発現解析を行い,バイオマーカーとしての有用性の検討を行う予定である.
平成26年度は順調に研究が進展したため,研究補助に対する人件費,謝金を必要としなかった.さらにp53ファミリーによって調節される標的分子の発現解析に必要な抗体,miRNA, ncRNAの発現解析に必要なプライマー,プローブは既存のものを使用できたため,直接経費の節約が可能であり,残額が生じた.次年度はp53ファミリーに制御される新規の非コードRNAとその標的分子の機能解析に随時着手する予定であり,その研究進展に活用したいと考える.
miRNAマイクロアレイ,およびp53結合コンセンサス配列の全ゲノム網羅的解析より,19のp53誘導性miRNA候補を同定した.それらすべてについて,real-time RT-PCR法によりp53ファミリーによる発現誘導を確認したところ,14miRNAの強い転写誘導が認められた.p53誘導性lincRNAも複数同定しており,それらの標的遺伝子の同定,細胞レベル,がん症例(胃癌,食道癌)での発現解析を進めていく計画である.また,CRKLに関する論文の採択が見込まれ,論文印刷費が生じる.次年度の研究費の使用計画発現解析のための試薬類(酵素類30万円,RNAプローブ20万円,リアルタイムPCR試薬30万円,抗体20万円),細胞培養器具・試薬20万円,学会発表旅費20万円,謝金30万円,論文印刷費10万円
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 1件)
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