研究課題
p53は,ヒトがんにおいて最も高頻度に遺伝子変異が検出されているがん抑制遺伝子であり,標的遺伝子の発現制御を行うことで腫瘍抑制機能を発揮している.一方,最近のゲノム解析の進展により,転写されたRNAの多くがタンパクに翻訳されない非コードRNA (ncRNA,miRNA)であり,遺伝子発現の様々な段階で重要な制御因子として機能することが明らかになってきた.本研究ではp53とそのファミリーであるp63・p73によって発現が制御される非コードRNAに着目し,特にがんの浸潤・転移との関わりを解析することにより,診断・治療への応用を試みる.p53誘導性miRNA,miR-200b/200c/429の新規標的遺伝子としてCRKLを同定し,前年度,Cancer Science誌に掲載された(CRKL oncogene is downregulated by p53 through miR-200s. Cancer Sci 2015;106:1033-40).平成28年度はCRKLの発現について,消化器癌での臨床検体の解析,公共のデータベースを用いた分析を進めた.その結果,食道癌組織で高率にCRKLの発現の発現上昇しており,セツキシマブ感受性と相関することを明らかにした.さらに,p53ファミリーに直接転写制御される新規標的遺伝子としてICAM2を同定した.ICAM2が癌細胞の遊走・浸潤能を抑制し,一方で接着能を促進させる機能を有していることを示した.これらの機能は、ERK経路の制御を介して発揮されていることが推測された.公共データベースの解析から,種々のがんでICAM2の低発現が予後不良因子であることが明らかになった.
2: おおむね順調に進展している
1)p53誘導性miRNA,miR-200b/200c/429の新規標的遺伝子としてCRKLを同定し(Cancer Science誌掲載済み),さらに発癌・進展との関わりを解析した.CRKLの導入により,癌細胞株の増殖,浸潤,遊走能が上昇することを明らかにした.さら臨床検体の解析から,CRKL遺伝子発現が胃癌組織で上昇し,予後不良と相関することをつきとめ,治療,予後のマーカーとなり得ることを明らかにした.また食道癌組織でも高率にCRKLの発現の発現上昇しており,セツキシマブ感受性と相関することを明らかにした.2)p53標的候補として接着因子をコードするintercellular adhesion molecule-2(ICAM2)に着目し,転写調節機構,がん細胞の浸潤・遊走・接着能に対する影響を検討した.がん症例(胃癌,食道癌)における発現解析も行い,研究成果を学術誌Oncotargetに投稿した.
p53ファミリーに制御される非コードRNAとその標的分子は,発がん,がんの進展に関与している可能性がある.さらにその発現はがん組織で変化している可能性が高く,予後,治療効果と相関していることが推測される.平成28年度は次世代シークエンサーを用いて,さまざまな癌組織で高発現している変異型p53によって発現が変化する非コードRNAの同定を試みた.研究成果を学術誌Oncotargetに投稿し,平成29年1月にrevisionの判定がなされた.再投稿に必要な追加実験のため,補助事業の延長を申請した(再投稿の期限5月24日).今後はさらに発現解析,機能解析を進め,バイオマーカーとしての有用性を検討していく.
p53ファミリーに制御される非コードRNAの発現解析に使用するプライマー,プローブ,酵素の多くは前年度,または前々年度に購入したものが使用できた.またクロマチン免疫沈降に使用する抗体を3種類購入する予定であったが,2種類については,他の研究者から供与いただけたため,物品費の節約が可能であった.さらに本年度新たに開始した次世代シークエンサーを用いた発現解析(RNAシークエンス)では,大学予算の試薬を使用できたため,RNA抽出・精製の費用程度の負担で充分な実験データが得られた.一方で,2016年アメリカ癌学会(4月 ニューオリンズ)で研究成果の発表を行ったため,旅費がやや高くなった.最終的に前年度の繰り越しを含め,100万円あまりの次年度使用額が生じた.
すでに施行済みのmiRNAの次世代シークエンサー解析,およびp53結合コンセンサス配列の全ゲノム網羅的解析から,p53に制御される非コードRNAの候補を同定している.成果の一部を学術誌Oncotargetに投稿し,平成29年1月にrevisionの判定がなされた.再投稿に必要な追加実験のため,補助事業の延長を申請した.次年度は研究を発展させるため,癌症例(胃癌,食道癌)における発現解析,血漿中の発現を解析することにより,消化器癌の新しい診断・治療システムの構築も試みる.さらに6月に開催される第12回国際ゲノム会議 "from Genome to Life",または日本癌学会学術総会での成果報告も計画している.細胞レベルでの発現・転写解析のための試薬類(酵素類10万円,リアルタイムPCR試薬30万円),臨床検体でのRNA発現解析のための試薬類(酵素類15万円,RNAプローブ40万),学会出張旅費7万円(第12回国際ゲノム会議,場所東京,2017年6月27日―29日)
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 8件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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