研究実績の概要 |
我々は、研究目的である「消化器疾患治療の新たな展開(胃型化・腸型化の制御による分化誘導療法)を探る」ために種々の検討を行い、平成28年度は以下のような研究成果を得た。1.我々が確立した胃腺管の長期in vitro 三次元培養系(Am J Pathol., 185, 798-807, 2015.)において、gastrospheres(三次元培養腺管+線維芽細胞の集団)と「胃の線維芽細胞」を共培養すると、長期in vitro 三次元培養腺管内の胃上皮細胞の分化が促進する傾向があることを確認した。即ち、Real-time quantitative RT-PCR で検索した結果、gastrospheresと胃の線維芽細胞を共培養した方がgastrospheres単独より、mucin 5AC glycoprotein(MUC5AC)、mucin 6 glycoprotein(MUC6)、pepsinogen C(PgC)、などの胃上皮の分化マーカーの発現が増加していた。以上より、胃の線維芽細胞が胃上皮細胞の分化に重要な役割を果たしている可能性が考えられた。2.昨年度、我々は腸での異所性MUC5AC発現の検索が、腸管ベーチェット病とクローン病の症例の治療効果判定に有用であることを報告したが(Dig Liver Dis., 47, 991-2, 2015.)、今回は、この知見をさらに検証すべく、長期にadalimumabを投与しているクローン病症例、あるいはadalimumabからinfliximabへスイッチしたクローン病症例にて、腸での異所性MUC5AC発現の検索を行い、上記の知見が臨床的な治療効果判定の一助になることを確認した。以上が、平成28年度の研究実績である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画調書記載内容と照らし合わせた研究の進行度は、以下の如くである。5. ヒト胃癌および大腸癌組織での癌幹細胞の同定と胃型・腸型粘液形質との関連性の検討:胃型腸型粘液形質発現の検索がすでに終了している200例のヒト胃癌手術標本(癌部および非癌部)および100例のヒト大腸癌手術標本(癌部および非癌部)について、幹細胞マーカーであるleucine-rich repeat-containing G protein-coupled receptor-5(LGR5)、B lymphoma moloney murine leukemia virus insertion region homolog-1(Bmi1)、Musashi-1の免疫染色を行い胃幹細胞、腸幹細胞および癌幹細胞(胃癌および大腸癌)の同定を含めて検討中である。6.英語論文作成:平成26年度から平成28年度の実験データを総合的に評価し英語論文の作成を行っている。その他、平成26から27年度に作成した3つの英語論文(Am J Pathol., 185, 798-807, 2015.; Exp Toxicol Pathol., 67, 271-277, 2015.; Dig Liver Dis., 47, 991-2, 2015.)に加えて、平成28年度は、「研究業績の概要」の「2.」で記載した結果を英語論文(Case Rep Gastroenterol., 10, 283-91, 2016.)にまとめた。以上より、区分は(2)と考えられる。
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