研究課題
生理活性脂質の一つであるリゾホスファチジン酸(Lysophosphatidic acid: LPA)は血中および腸管内で産生される。ヒト炎症性腸炎疾患やマウス腸炎モデルであは血中LPA産生が亢進して炎症部位へのリンパ球浸潤が活性化される一方で、LPA腸管投与には創傷治癒・粘膜保護作用があることがマウスで明らかにされているが、LPA受容体を介したリグナリングは不明点が多い。本研究では比較的最近発見された3種類の非Edg型LPA受容体LPA4~6に着目し、それらの欠損マウスに炎症性腸炎を惹起することで、その病態形成機序の一端を明らかにすることを目的としている。申請者は炎症性腸炎モデルとして自然免疫応答優位のDSS経口投与、Th1応答優位のTNBS直腸投与、Th2応答優位のオキサゾロン直腸投与を試験しており、このうちオキサゾロン誘導性腸炎モデルにおいて、LPA4~6の中でも特に腸管免疫系での発現が優位であるLPA5の欠損マウスで感受性が高いことを見出した。一方LPA4欠損マウス、LPA6欠損マウスでは各腸炎モデルにおいて炎症応答の変化は見られなかった。腸炎時のLPA5欠損マウスではTh2応答関連のサイトカインであるIL-4が有為に増加していることが見出された。FACS解析によりマクロファージとB細胞数を比較したところ、LPA5欠損マウスの腹腔洗浄液中ではマクロファージ数が減少し、B細胞数が増加していることが判明した。これに関連してLPA5欠損マウスでは抗原特異的な受動アナフィラキシー応答が増悪化しており、マウス個体レベルでTh2応答の増強があることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
Th2応答による炎症であるオキサゾロン誘導性腸炎はTh1応答優位なC57BL/6背景では炎症応答が弱いため、LPA5 応答優位なBalb/c背景に変更したところ十分に強い炎症を引き起こすことに成功した。Balb/c背景のLPA5欠損マウスでは生存率、炎症スコアで増悪化が見られた。ただし野生型でも強い応答があり、実験ロットによってはLPA5 欠損マウスでの増悪化が見えなくなる場合があったため、C57BL/6背景の併用が必要である。C57BL6背景ではLPA5遺伝子欠損マウスでは炎症時にIL4発現増加が見られたことなどから、Th応答の指向性がナイーブな状態でもTh2に偏っている可能性を調べるためにFACS解析によりマクロファージとB細胞数を比較したところ、LPA5欠損マウスの腹腔洗浄液中ではマクロファージ数が減少し、B細胞数が増加していることが判明した。これに関連してLPA5欠損マウスでは抗原特異的な受動アナフィラキシー応答が増悪化していることが判明し、同様にTh2応答優位な細胞応答であるマスト細胞の解析を視野に入れる方針である。一方抗炎症サイトカインIL-10の欠損マウスとの交配によるLPA5/IL-10ダブル欠損マウスで生じる腸炎は有為な結果は得られていない。
Th1応答優位なC57BL6背景とTh2応答優位なBalb/c背景いずれのLPA5欠損マウスでもオキサゾロン誘導性腸炎の増悪化が見られ、C57BL6背景のナイーブなLPA5欠損マウスにおいては腹腔でTh2応答に特徴的な細胞であるB細胞の数が増多し、マスト細胞は過成熟の可能性があることが判明してきており、今後腸管において同様の細胞構成のシフトが起きているかを検証する。また腸炎惹起時にLPA腸管投与し、その効果を検証する。またLPA産生酵素ATXに対する抗体や阻害剤を血管内投与し、血管中のLPA産生を止めた時の炎症性腸炎の症状を観察する。
マウス背景の変換を行った結果、腸炎症状の増悪化には成功したが、野生型との比較が難しくなった面があり、腸炎の評価に遅れが生じた。このため腸管での細胞構成やサイトカイン産生の検証が進まなかったが、これを28年度中により多く行うために研究費用を一部持ち越した。
研究計画のうち26年度中に計画していた②でT細胞を標的とした計画を立てていたが、Th2応答優位になっている状態がどの細胞群に原因があるのかを確認するために、これに加えて腸管におけるB細胞と粘膜マスト細胞を視野に入れ、細胞分布や関連するサイトカイン発現を確認する。これに伴う試薬・消耗品類に充てる。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件)
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