研究課題/領域番号 |
26460963
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
藤井 俊光 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 助教 (30547451)
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研究分担者 |
永石 宇司 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 助教 (60447464)
渡邉 守 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (10175127)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 下部消化管学(小腸、大腸) / 炎症性腸疾患 / 新規治療 / 腸管免疫 / リンパ球動態制御 |
研究実績の概要 |
炎症性腸疾患(IBD)の治療は生物学的製剤の登場で激変したものの、未だに社会的問題となっている。さらに病変の粘膜治癒なくして臨床的寛解のみでは遷延、再燃していずれ腸管切除に至るリスクを秘めているのが現状であり、求められる治療目標はますます高度化している。抗TNF療法の無効例や効果減弱例の増加もIBD診療の新たな問題である。したがってIBDの遷延化や再燃の阻止に向けて、単一分子を標的とするだけでなく、病原性メモリーリンパ球を包括的に制御する必要性を我々は提唱する。本研究ではこれまで我々が見いだしてきたIBD特異的な免疫学的異常に着目し、病原性メモリー細胞のtrafficking制御を標的とした、これまでと全く異なる概念に基づいた新規治療法の可否に関して独自に検討を行っており、最終的にIBDに対する新規治療法の開発基盤樹立を目的としている。 IBDにおける特異的な免疫学的異常、特に病原性T細胞のS1P/S1P受容体システムに関した知見をリンパ球動態制御による治療に応用するために、平成27年度はまず、平成26年度において解析してきたナイーブT細胞移入腸炎モデルに対しfingolimodを投与し腸炎発症の程度について解析を行った。その結果fingolimodはコントロール群に対し有意に移入8週後の腸炎を臨床スコア、組織学的スコアともに抑制し、さらに脾臓、腸間膜リンパ節、末梢血、骨髄、大腸粘膜CD4+T細胞数を抑制した。さらに各臓器より単離したCD4+T細胞の細胞表面抗原、サイトカイン産生能等の解析を行った。その結果病原性メモリー細胞は減少し、各種の炎症性サイトカイン産生能は低下していた。またアポトーシスは誘導されず、これらよりfingolimodはナイーブT細胞移入腸炎を抑制することが明らかとなった。上記の成果は我々が想定している、病原性リンパ球動態制御による腸炎抑制として合致している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究期間において、fingolimodのナイーブT細胞移入モデルにおける腸炎抑制効果が明らかとされた。また現在すでに、ナイーブT細胞移入腸炎モデルより単離した病原性メモリーT細胞を移入する病原性メモリーT細胞移入腸炎モデルを確立している。当研究の根管となる、病原性メモリー細胞動態制御の治療応用について、同腸炎モデルにおけるfingolimodの有効性の探索を開始している。腸上皮幹細胞の単離による、三次元培養法に基づく腸上皮オルガノイドへのfingolimodの影響については条件を確立しておりこれについても大きな成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在、病原性メモリーT細胞(CD4+CD44hiCD62L- TEM細胞)移入腸炎モデルに対するfingolimodの腸炎抑制効果に関して検討を開始している。ナイーブ腸炎のみならずメモリー腸炎モデルにおいてもfingolimodが腸炎を抑制するのであれば、既存のfingolimodが二次リンパ節にリンパ球を隔離し免疫抑制作用を発揮するという既知の機序では腸炎抑制効果の説明は困難である。有効性を発揮した場合はその機序を解明するため、二次リンパ節欠損マウスにおける全く新しい腸炎モデルの作成を試み、この新規腸炎モデルにおいてfingolimodの腸炎抑制作用を解析しする予定である。それによりリンパ球再循環制御について解明を試みる。また、現在ヒト検体に関して条件調整を行っており、その結果に応じて臨床試験への応用を待機中である。fingolimodは多発性硬化症の新規薬剤として保険収載され、ヒトへの安全性が明らかとなっており、保険適応外使用として本学治験等審査委員会へ介入試験の申請を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬等が計画当初より廉価で購入可能であったため。
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次年度使用額の使用計画 |
検討する数・種類を拡大して解析を行うため、試薬を増量して購入する予定である。
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