本研究の目的は、腸炎疾患の回復期における消化管運動調節性細胞(カハール介在細胞;ICC)の再生に関わる増殖・転写因子の作用機序の解明である。本年度は、前年度に引き続き、詳細にTNBs投与後の消化管筋層における増殖細胞を解析することで、ICCの回復過程について検討した。TNBS投与2日目の炎症急性期において、炎症は粘膜のみならず筋層におよび、筋層の組織構築の傷害が観察された。ki67免疫染色により、TNBS投与5日目において筋層に増殖細胞が認められた。各種細胞マーカーを用いた二重染色により、平滑筋、カハール介在細胞、線維芽細胞、白血球が増殖を示すことが明らかとなった。一方、神経細胞に増殖は認められなかった。TNBS投与2日目において、筋層におけるc-KIT発現の低下が認められた。投与7日目では腸壁の炎症像は軽減し、c-KIT発現も正常レベルに回復した。ki67とc-KIT二重免疫染色による解析の結果、TNBS投与後4日-6日で筋層のc-KIT発現細胞にki67陽性反応を示す細胞核が見いだされた。BrdU投与実験でも、炎症回復過程においてc-KIT発現細胞が増殖を示すことが示された。全載伸展標本により、このBrdUを取り込むc-KIT陽性細胞が形態学的にカハール介在細胞の特徴を示すことも明らかとなった。 本研究から、TNBS腸炎の炎症回復過程における筋層の組織修復には平滑筋細胞など種々の細胞の増殖が関与することが示唆された。また、c-KIT免疫染色による解析により、炎症によるカハール介在細胞ネットワークの破綻からの回復の少なくとも一部は、同細胞の増殖によることが示唆された。
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