研究課題/領域番号 |
26460967
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松浦 稔 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30402910)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 炎症性腸疾患 / Ngal |
研究実績の概要 |
好中球や消化管上皮などに発現がみられるNeutrophil gelatinase-associated lipocalin (Ngal)は細菌による鉄利用を阻害して生体防御に働くことが知られている。一方、腸内細菌により慢性腸炎が自然発症するInterleukin-10欠損(以下IL-10KO)マウスでは、腸炎の進展とともに腸管組織におけるNgalの遺伝子発現や糞便中Ngal濃度が経時的に増加する。そこで今年度はNgalの炎症性腸疾患の病態への関与を明らかにするため、IL-10KO/Ngal double KO(IL-10/Ngal DKO)マウスを作製し、Ngalが慢性腸炎と腸内細菌叢に与える影響を検討した。また、腸管粘膜の防御機能に対するNgalの役割を検討するために、デキストラン硫酸(DSS)腸炎をNgal KOマウスに誘導し、その表現系を解析した。 1)IL-10/Ngal DKOマウスを用いた検討 IL-10KOマウスおよびIL-10/Ngal KOマウスにおいて、組織学的炎症および腸管組織および腸管膜リンパ節細胞における炎症性サイトカインの発現(TNF-a, IFN-g, IL-17)を経時的に検討した。その結果、IL-10KOマウスと比較し、IL-10/Ngal DKOでは生後早期(4週齢)から組織学的炎症は著明に増悪し、各種炎症性サイトカイン産生の有意な増加を認めた。生後3週齢のIL-10KOおよびIL-10/Ngal DKOマウスの盲腸内容物を用いてT-RFLP法にて腸内細菌叢の変化を検討したが、両群間に有意な差を認めなかった。 2)DSS腸炎を用いた検討 Ngal KOマウスおよびWTマウスに5%DSS溶液を自由飲水させ腸炎を誘導し、体重変化および組織学的所見を経時的に評価した。しかしながら、急性DSS腸炎モデルでは両群間に有意差を認めなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度当初の研究計画では2つの実験腸炎モデル、即ち、腸内細菌により自然発生腸炎が誘導されるIL-10KOマウス(Ngal KOマウスを交配させてIL-10KO/Ngal DKOマウスを作成)と粘膜傷害モデルであるDSS腸炎を用いて、Ngalの腸炎発症の病態への関与とそのメカニズムについて検討する予定であった。現在、IL-10KOおよびIL-10KO/Ngal DKOマウスにおける慢性腸炎、またNgal KOマウスおよびWTマウスにおけるDSS腸炎に関する検討は当初の計画通りほぼ順調に推移している。しかし、IL-10KOおよびIL-10KO/Ngal DKOマウスを用いた検討では表現系が比較的均一に認められたが、DSS腸炎モデルでの検討では個体間のばらつきが大きく、Ngal欠損がDSS腸炎に与える影響を検証するのに時間を要したため、当初の研究計画よりやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はNgalが腸炎増悪に関与するメカニズムについて検討する。これまでの研究結果から、Ngalが腸管上皮細胞で主に発現されること(昨年度)、Ngal欠損の結果、腸炎発症早期に著明な腸炎増悪を認める一方で、腸内細菌叢については明らかな差を認めていないことから、Ngalが腸炎増悪に関与するメカニズムとして、腸内細菌に与える直接的な影響よりは腸管バリア機構や自然免疫応答(マクロファージなど)に関与する可能性が考えられる。そこで具体的には、Ngal KOマウス(対照群:WTマウス)やIL-10KO/Ngal DKOマウス(対照群:IL-10KOマウス)の腸管組織における粘膜防御関連因子 (Claudin, ZO-1, MUC2, TTF, MDR-1など)の発現や、骨髄由来のマクロファージを用いて貪食能(BioParticleや大腸菌を用いたPhagocytosis assay)、殺菌処理能(gentamicin assay)、活性化されたマクロファージからの炎症サイトカイン産生などについてin vitroでの検討を行う。また逆に、Ngalを添加したMedium中で培養したcolitogenic bacteria (Escherichia coli, Enterococcus faecalis, Klebsiella pneumoniaeなど)をマクロファージに感染させ、細胞内での細菌増殖や殺菌抵抗性についてGentamycin protection assayを用いて検討し、Ngalの細菌毒性に与える影響についても解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度から本格的に解析を始めた実験マウス(IL-10KO/Ngal double KOマウス)の維持に必要とする経費が想定以上に増え、予算内での経費配分変更を余儀なくされた。そのため、本年度は当初の研究計画で予定していた腸内細菌に関する分子生物学的解析も開始したが、サンプル調整に必要な試薬や解析費用が高価であり、効率的な経費使用(経費節約)のために解析を行う検体数に優先順位を決めて最小限に留めている。従って、これらの解析に関する費用が一部軽減され、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究遂行に必要とされる経費は、1)実験マウスの飼育・管理、2)各種抗体および試薬、3)情報収集および成果発表のための旅費である。1) 実験マウスの飼育・管理に要する費用: 新たな実験モデルマウスの作成・維持に加え、経時的な解析やex vivoでの検討が必要であり、通常より多めの実験マウスの維持管理が必要となる。 2) 各種抗体および試薬: これまでと同様、病理組織学的解析やサイトカイン測定に必要な試薬・抗体の購入が必要である。また今後は分子生物学的手法を用いた腸内細菌の解析を本格化するため、これらに関する経費が新たに必要となる。 3)情報収集および成果発表のための旅費: 本研究に関する情報収集および成果発表のための旅費が必要になる。
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