好中球や消化管上皮が産生するNeutrophil gelatinase-associated lipocalin(Ngal)は細菌による鉄利用を阻害して宿主の生体防御に働くことが知られている。腸内細菌の存在下に慢性腸炎が自然発症するInterleukin-10欠損(以下IL-10KO)マウスを用いて慢性腸炎におけるNgalの発現について検討した。IL-10KOマウスでは腸炎の進展とともに糞便中Ngal濃度が増加し、組織学的炎症度(Histologic score)とも有意な正の相関を示した。 次に、IL-10KO/Ngal double KO(IL-10/Ngal DKO)マウスを作製し、Ngalが慢性腸炎と腸内細菌叢に与える影響を検討した。IL-10KOマウスと比較し、IL-10/Ngal DKOでは生後早期(4週齢)から腸炎は著明に悪化し、炎症性サイトカインの有意な増加を認めた。生後3週齢のマウス盲腸内容物を用いて腸内細菌叢の変化をT-RFLP法にて検討したが、両群間に有意差を認めなかった。 さらに IL-10/Ngal DKOにおける腸炎悪化の機序を明らかにするため、IL-10KOマウスおよびIL-10/Ngal DKOから採取した腹腔内あるいは骨髄由来マクロファージを用いてin vitroで検討した。IL-10KO由来マクロファージと比較し、IL-10/Ngal DKO由来マクロファージでは貪食された細菌の殺菌処理能が低下し、活性化マクロファージからの炎症性サイトカインが有意に増加した。加えてIL-10/Ngal DKO由来マクロファージではLC-Ⅱ/Ⅰ比の低下を認め、細胞内でのオートファジーの障害が関与している可能性が示唆された。 以上より、Ngalはマクロファージ内に貪食された細菌のクリアランスを促進することによりIBDの病態生理に関与する可能性が示唆された。
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