研究課題
骨および肝臓はいずれもインスリン様増殖因子(Insulin-like Growth Factor: IGF)の産生量が多い臓器として知られている。臓器転移をきたした腫瘍はIGFの生理的な阻害因子である、IGF結合蛋白質を自身が産生するプロテアーゼにより分解し、転移巣局所で増加した生物活性をもった(Bioactive)IGFは抗アポトーシス因子として転移形成に重要な役割を果たす。このメカニズムをもとに申請者らは前立腺がん・乳がんの骨転移、大腸がんの肝転移をIGF中和抗体で抑制できることを証明してきた。次にBioactive IGFをEDTA血漿を用いて測定するバイオアッセイ法を開発し(Growth Hormone and IGF Res 2015)、大腸がん肝転移モデルにおいて経時的にBioactive IGFが上昇することを確認した。また非膵島腫瘍性低血糖(Non-islet Cell Tumor Hypoglycemia: NICTH)は腫瘍が産生する高分子量IGF-2がその病態に関与していることが知られている。われわれが経験したNICTH症例において、血中Boactive IGFを上記アッセイ法で測定したところ、Bioactive IGF-2の増加を認め、NICTHの病態においてはIGF-2の活性化が恒常的に見られ、インスリン受容体を介して低血糖を起こすことが示された(Cancer Biol Ther 2014)。さらにヒト大腸がん細胞株HT29が高分子量IGF-2を産生し、Xenograftモデルにおいて低血糖をきたすことを見出した。このNICTHのモデルマウスを用いてIGF中和抗体の低血糖抑制効果および腫瘍抑制効果を評価し、Bioactive IGF-2の治療標的としての有用性を証明する。
3: やや遅れている
① ヒト、マウス血中のBioactive IGFを測定するに当たり、至適なpre-analytical conditionの設定に時間がかかった。最終的にヒトとマウスではIGF/IGFBO複合体の安定性に大きな差があること(ヒトのほうが安定)、Bioactive IGFの測定にはEDTA血漿が必須であること、マウス血漿は長期保存に向かないこと、など測定にあたり重要なpre-analytical conditionを明らかにすることができ、論文にて発表した(Growth Hormone and IGF Res 2015)。② ヒトがん細胞株を脾臓に注入し作成する肝転移モデルにおいて、転移効率のばらつきが大きな問題となっていたが、脾臓を半分に切離し、脾動脈を一本化するhemispleen techniqueを用いることにより安定して肝転移の作成が可能になった。
① Bioactive IGFの測定法がほぼ確立できたため、IGF中和抗体治療におけるバイオマーカーとしての有用性を評価する。これまで研究を継続してきたヒト大腸がん細胞を用いた肝転移の系をよりシンプルにして、野生型マウスにマウスがん細胞を移植し肝転移を作成し、マウスIGF-1のみを中和する系を用い(成人マウスにはIGF-2は存在しない)、抗マウスIGF-1中和抗体の転移抑制効果と、Bioactive IGF-1の治療効果予測マーカーとしての有用性を検討する。② われわれは偶然にHT29がNICTHを引き起こすことを見出した。NICTHのモデルマウスは今までに報告がなく、このモデルを用いてNICTHの病態解明とIGF中和抗体の低血糖抑制効果および腫瘍抑制効果を評価する。NICTHはまれな病態ではあるが現実には高カロリー輸液を継続するしか治療法がないため、マウスモデルで低血糖が改善されただけでも臨床現場へのインパクトは大きく、早急なIGF中和抗体の臨床応用を進める。IGF中和抗体は第Ⅰ相試験にとどまっているものの、すでにヒトに投与可能な製剤が存在する。
初年度は野生型マウスを用いた実験が多く、またin vitroの実験においても抗体や細胞培養器具に関しては十分なストックがあったため。
次年度は最終年度でもあり、動物実験が主体となり、肝転移モデルやNICTHモデル作成のための免疫不全マウス(SCIDマウス)の購入に充てる予定である。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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http://oncology.kuhp.kyoto-u.ac.jp/research