研究課題
私共は、これまでのクローン病モデルマウス(SAMP1/Yit)とT細胞移入腸炎モデルを用いた検討において、クローン病の病態における制御性B細胞(Breg)の機能を明らかにしてきた(Immunology 2010, Inflamm Bowel Dis 2014)。しかし、腸管免疫の恒常性維持におけるBregの誘導・活性化機構は全く不明であった。本年度、申請者らは、炎症性腸疾患(IBD)の新規治療法開発に関する様々な研究を進めている過程で、体外で調整したアポトーシス細胞(胸腺)を腸炎モデル(T細胞移入SCIDマウス)に移入することで、腸炎抑性が可能になるという新知見を得た。特に、移入アポトーシス細胞の抗炎症効果はB細胞との供移入モデルでのみ観察された。この結果は、アポトーシス細胞の移入がB細胞を介して抗炎症効果を誘発し、Bregがこのメカニズムに関与する可能性を示唆するものである。実際、移入アポトーシス細胞がレシピエントの脾臓においてBregを誘導することを明らかにした。本研究成果は2014年度にInflamm Bowel Disに投稿し査読を経てアクセプトされた。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の項で述べたように、Bregを生体内で誘導するメカニズムについて研究を進めてきた。アポトーシス細胞を生体内に体外から移入することで抗炎症効果が得られるという知見は以前から得ていたが、その詳細なメカニズムは不明であった。本申請課題の最も中心となる目的は、生体でのBregの誘導機構を明らかにしていくことであり、その点においては、体外から移入したアポトーシス細胞がレシピエントの脾臓でBregを誘導・活性化することができることを見出した新知見は、Bregの臨床応用を考える上で有意義な研究成果と考えている。本年度の研究成果は、あくまでBregの誘導・活性化機構の1つのメカニズムをみたものであるが、研究の申請課題の進行状況としては、これまで比較的順調と考えている。
アポトーシス細胞がレシピエントの脾臓でBregを誘導・活性化することは明らかとなったが、その詳細なメカニズムについては今のところ不明である。B細胞はB細胞受容体(BCR)や核酸認識Toll様受容体(TLR9)などを介して、自己抗原認識することが知られ、このシステムが免疫寛容誘導に貢献している(Tiller. Immunity. 2007)。2015年度は、アポトーシス細胞から遊離または細胞表面に表出されるDNA-クロマチン複合体の認識を介したBregの活性化を、脾臓B細胞(野生型、TLR9 KOマウス)とアポトーシス細胞の共培養系で証明する。同様にTLR9 KOマウス腸炎モデルでのアポトーシス細胞移入の効果を評価する。食細胞によるアポトーシス細胞の貪食によって免疫寛容が誘導される(Hanayama. Science. 2004)。この系におけるBreg活性化を、貪食機能が欠失したマウス(Milk fat globule-EGF factor-8 KO)を用いた腸炎モデルと、分離した脾細胞とアポトーシス細胞の共培養系で証明していく。
2014年からの研究申請課題は、2013年度までの研究(基盤C)の研究成果をさらに基礎的に解明し、臨床応用していくというものであり、研究内容は継続的なものとなっている。したがって、実験動物(AKR/Jマウス、SCIDマウス)の使用、分子生物学的試薬、各種抗体、プラステイックデイスポ製品の使用についても、これまでの研究結果をもとに無駄なく購入、使用することができたことが次年度使用額の生じた理由と考えております。
今後の研究の推進方策の項で述べたように、2015年度はマウスを用いた実験、さらにin vitroにおいてBregの誘導・活性化機構の詳細を検討していく予定である。したがって、動物の購入費用、分子生物学的試薬、各種抗体、プラステイックデイスポ製品は必要であり、その部分に残費用を充てるとともに2015年度の予算も効率的に使用していきたい。研究成果については、2015年秋の国内学会、2016年2月の国際学会で発表する予定であり、旅費は準備費などにも予算を充てていく予定である。
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