研究課題
本研究は申請者らが作製したHLA-DR4トランスジェニックマウスのホモ接合体が、重篤な潰瘍性大腸炎様の症状を呈し、生後3~4ヶ月以内に死亡する原因を突き止めることを目的とする。これまでにHLA-DR4トランスジーンは第3染色体のテロメア側に、約39kb塩基長の欠落を伴い挿入されていることを明らかにしている。本マウスに見られる大腸炎発症がトランスジーンのホモ接合体のみに認められることから、この病因は、第3染色体の39kb塩基領域の欠損か、あるいはHLA-DR4分子の過剰発現か、あるいはその両方であることが考えられた。39kb塩基領域の欠損が病因である可能性を検討するため、CRISPR/Cas9システムを用いて人為的に同領域をノックアウトしたマウスを作製し、本トランスジェニックマウスと同様の症状を呈するか否かを確認する。いっぽう、HLA-DR4分子の過剰発現が病因である可能性は、導入したトランスジーンによるHLA-DR4分子の発現に不可欠なMHCクラスIIトランスアクチベーター(CIITA)を欠損するマウスと本トランスジェニックマウスを交配することにより、CIITA欠損背景のホモ接合体マウスを作製し、二倍体量のトランスジーンと39kb塩基領域の欠損は保持するがHLA-DR4分子を発現しないマウスを作製し、本トランスジェニックマウスと同様の症状を呈するか否かで確認する。本年度は、上記第3染色体約39kbを欠損するマウスの作製、およびCIITA欠損マウスと本トランスジェニックマウスとの交配を開始し、前者については5系統のキメラマウスを作製し、第3染色体約39kbを欠損が安定して子孫に伝わることを確認した。後者については、現在CIITA欠損およびトランスジーンの両ホモ接合体マウスを作製中である。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、HLA-DR4トランスジーンの挿入により生じた第3染色体の約39kbの欠損を人為的に再現するため、同領域をネオマイシン耐性遺伝子と置換する相同組換ベクターを作製し、CRISPR/Cas9システムを用いて従来法よりも置換効率を高めることにより相同組換体を樹立する研究計画であった。当該相同組換ベクターは予定通り作製できたが、意図した相同組換が生じたES細胞は1クローンしか得られず、さらに同ES細胞から作製したキメラマウスは精子形成が不全であり、相同組換体遺伝子を子孫に伝えることができなかった。そこでCRISPR/Cas9システムにより直接的に第3染色体約39kbの除去を試みたところ、5つのES細胞クローンが得られ、そのうち4つのクローンからキメラマウスを作製することができた。さらにそのうちの3系統のマウスにおいて、改変遺伝子が安定して子孫に伝達されることを確認した。これらのF1マウス間の交配、あるいはF1マウスとヘテロ接合体マウスとの交配により、第3染色体約39kbを欠損するマウスを繁殖させ、それらの表現型を観察中である。また次年度以降に計画していたCIITA欠損背景のHLA-DR4トランスジェニックマウスの作製にも着手し、現在交配により、CIITA欠損およびトランスジーンの両ホモ接合体を繁殖させている。したがって、研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
CRISPR/Cas9システムにより作製した第3染色体約39kbを欠損するマウス、およびCIITA欠損背景のトランスジーンホモ接合体マウスが、それぞれトランスジーンホモ接合体マウスに観察される大腸炎を発症するかどうかを、目視、体重変化、病理解剖、大腸浸潤細胞の解析等を行い、大腸炎発症の病因を検討する。また、骨髄移植実験、MHCクラスⅡやIL-6の欠損マウスとの交配などを行い、大腸炎発症の原因となる細胞や分子機構の特定を進める予定である
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