研究課題/領域番号 |
26460975
|
研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
山下 健太郎 札幌医科大学, 医学部, 助教 (90381269)
|
研究分担者 |
有村 佳昭 札幌医科大学, 医学部, 講師 (80305218)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 骨髄-腸管連関 / 幹細治療の最適化 / 骨髄間葉系幹細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は,炎症性腸疾患をはじめとする難治性腸管障害に対する骨髄幹細胞治療の新規開発が一般目標である.そのために,①骨髄-腸管連関の全容を解明すること,②前臨床試験として骨髄間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell; MSC)移植治療の最適化を目指すこと,③腸炎をきたした生体における内因性骨髄細胞の異常性を解明すること,の3点を研究期間内における本研究の行動目標としている.すなわち,骨髄-腸管連関を解明し,それを応用することで,epithelial restitution,上皮の増殖・分化からなる傷害腸管の創傷治癒機転そのものを促進させ,同時に難治性腸炎における骨髄ニッチ細胞(niche cell; NC)の異常を是正する新規再生治療の開発を目指している. 2016年度は,当初の予定を変更し,主に上記③の腸炎をきたした生体における内因性骨髄細胞の異常性の解明を目指した.すなわち,「腸炎においては,HSCおよびこれを支持するNCが異常化し,腸管組織への過剰な炎症細胞浸潤を誘発する.これに対して,MSC治療は,骨髄ニッチを正常化することで,腸炎の重症化を抑制する」という仮説を検証した.腸炎を惹起したモデルにおける造血幹細胞や骨髄ニッチの異常を明らかにし,これらの異常が外因性に投与したMSCにより是正されることを明らかにした.現在,骨髄移植のプロトコール確立のため,前処置(放射線照射およびブスルファン)の条件を決める基礎的研究を施行中である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの予備的検討および本検討により,DSS腸炎を惹起した際,骨髄における各分化段階のHSC,すなわち,long-term reconstituting HSC(LT-HSC),short-term reconstituting HSC(ST-HSC),およびmultipotent progenitor cell (MPP)の構成割合をFACSにより解析した.その結果,DSS腸炎により,LT-HSCやST-HSC数の減少が認められた.その際,LT-HSCの自己複製能の指標であるFzd4およびTie2の発現低下を伴っていたが,これらの変化がMSC治療により一部回復することを確認した.同時に骨髄におけるnestin発現細胞数も同様に増減した.これらの結果は,炎症により骨髄の微小環境であるNCに質的および量的変化をきたし,HSCの分化が促進されて過剰な炎症細胞浸潤をきたすこと,MSC治療により,これらの一部が是正されたことを示唆する.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では.さらにGFP+MSC治療の再現性を確認する.すなわち,ソーティングしたHSCのstemnessに関わる分子発現の変化をPCRにより解析する.さらに内因性および外因性MSCにおけるnestin発現細胞数を免疫蛍光で確認し,その機序解析を詳細に予定している.MSCの由来,生着の機序およびレシピエント腸組織での分化・細胞運命の解明のため,同系,同種,および,異種移植骨髄移植モデルにおける骨髄キメララットを作成し,DSS (dextran sulfate sodium) 腸炎を誘発する.MSCの生着数をカウントし,経時的に細胞の分化および細胞運命を推定し,有効性機序を検討する.同種モデルにおいて免疫抑制薬(FK506)使用群と未使用群を設定し,比較検討する.傷害腸管に生着するMSCの由来(骨髄細胞あるいはpericyte由来)を決定するためにマウスNG2プロモーター/エンハンサー下にDsRed.T1蛍光を発するトランスジェニックマウスをレシピエントとして野生型C57BL/6J由来HSCとラットタグ標識MSCを混合し,骨髄移植を施行する.この骨髄キメラマウスにDSS腸炎を誘発し,ラットGFP+ MSC移植治療群と無治療群において傷害腸管に動員されたMSCの細胞由来を決定する.すなわち,抗DsRed抗体陽性MSCは傷害組織のpericyte由来であり,抗タグ抗体陽性であれば,内因性骨髄MSC由来,さらにGFP陽性であれば,外因性MSC由来とそれぞれ区別して判定する計画である.現在,移植実験のための前処置に関する基礎検討中であり,準備を進めている.
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度への繰越は,物価の変動や研究計画の修正に伴う経費の変動により生じたわずかな額である.
|
次年度使用額の使用計画 |
繰越額はわずかであり,次年度における試薬など消耗品に充てる予定である.
|