炎症性腸疾患は原因不明の慢性炎症性疾患である。患者QOLを低下させる原因の一つに慢性炎症が惹起する腸の線維化とそれに伴う狭窄がある。粘膜の炎症や潰瘍形成の治癒過程において線維芽細胞が遊走し粘膜の修復を担う過程で線維化がおこり、管腔の狭細化が進行すると考えられているが、その機序は不明な点が多い。今回我々は慢性炎症後の腸管線維狭窄の機序解明を目的として、特に炎症や線維化形成過程に強く関与すると考えられるNF-κBシグナルに焦点をあて、炎症性腸疾患の腸管線維化の分子メカニズムについて以下の3つ、①マウス腸管線維化モデルを用いた検討、②マウス胎児線維芽細胞を用いた検討、そして③炎症性腸疾患患者臨床検体における遺伝子変異解析、を行い検討した。①転写因子NF-kBを線維化に関与する筋線維芽細胞特異的に欠損したマウス(IKKβΔMF)を用い、DSS腸炎モデルおよび腸管同種移植モデルで検討を行ったが、結果は2群間の腸管線維化に有意な差は認めなかった。腸管同種移植モデルにおいては、野生型マウス移植片に比べIKKβΔMFマウス移植片組織内のαSMA陽性細胞やCD31陽性細胞は減弱しており、筋線維芽細胞におけるIKKβが血管増生や線維芽細胞の動員を介し、腸管線維化に寄与していることが示唆された。②野生型マウスおよびIKKβノックアウトマウス由来の胎児線維芽細胞(MEF; mouse embryonic fibroblasts)を用いて、LPSやIL-1β、TNF-αなどの炎症刺激による線維化関連遺伝子の発現を検討し、IKKβ依存的に線維化関連シグナルが発現していることが示された。③炎症性腸疾患患者検体における遺伝子変異解析を次世代シークエンサーを用いて行い、炎症や線維化に関わる遺伝子変異候補を抽出でき、以上より線維化感受性遺伝子やNF-kBを標的とした治療の可能性が示された。
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