研究課題
本研究では肝細胞がんの可塑性について、特にがん幹細胞の維持制御機構と微小環境を構成する細胞との関連について検討を行っている。平成26年度では、肝がん培養細胞株Huh7細胞と線維芽細胞WI-38、星細胞株であるLX2、血管内皮細胞株であるHUVECとの共培養システムを用いて検討を行い、EpCAM陽性肝がん幹細胞分画がWI-38共培養によって増加すること、WI-38で高いTGF-betaの発現が認められ、TGF-betaに対する中和抗体でその効果を抑制可能であること、などを同定した。平成27年度ではさらに、WI-38との共培養によりHuh7細胞に遠隔転移能力が獲得されることを免疫不全マウスを用いたin vivoでの解析で同定した。さらに、WI-38から分泌されるTGF-betaがHuh7細胞に与えるエピジェネティック変化につき検討を行った。ヒストンマークについて、H3K4me3、H3K9me3、H3K36me2に特異的な抗体を用いて検討を行い、TGF-beta投与48時間後にはHuh7細胞でH3K36me2が特異的に減少すること、この減少はヒストン脱メチル化酵素KDM2Bの発現亢進を伴っていることを同定した。以上の検討結果から、TGF-betaがEpCAM陽性細胞の増加を起こす原因として、KDM2B活性化に伴うヒストンマークの変化により、EpCAM陰性Huh7細胞のEpCAM陽性細胞への脱分化が起こっている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
肝がん幹細胞の脱分化が微小環境細胞によって制御されている可能性、さらにその制御はヒストン修飾を介したエピジェネティックな制御により行われている可能性が示唆された。さらに、昨年度に危惧していた微小環境ががん細胞の遠隔転移に与える影響については、免疫不全マウスを用いたin vivoの系でも仮説通りに確認されたことから、計画はすべて当初の計画にそって予定通りに進んでいる。
研究は順調に進んでおり、平成28年度はエピジェネティックメモリー、特にH3K36me2の制御に関わるKDM2Bのがん幹細胞における発現について検討を行う。さらに、KDM2Bの過剰発現、もしくはsiRNAを用いたノックアウトの系をin vitroで作成し、がんの幹細胞性、微小環境細胞との相互作用との関連について、KDM2Bが与える影響を研究計画どおりに検討する。さらに可能であれば、ChIP-seqを行うサンプルを調製し、ヒストン修飾変化が転写制御とがん幹細胞性に与える影響について解析検討を行う予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Journal of Hepatology
巻: 63 ページ: 1164-1172
10.1016/j.jhep.2015.06.009.