研究課題/領域番号 |
26461004
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
青井 貴之 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00546997)
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研究分担者 |
青井 三千代(小柳) 神戸大学, 医学部附属病院, 助教 (90432327)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 肝細胞 / 免疫 / C型肝炎 |
研究実績の概要 |
本研究はヒトiPS細胞からの肝細胞への分化誘導技術やiPS細胞の遺伝子改変技術等を駆使することによって、ヒト非癌肝細胞へのウイルス感染に惹起される免疫標的分子の発現制御機構を包括的に明らかにし、それをターゲットとする創薬へと展開するための系を確立することを目的とし、本年度は以下の内容を実施した。 【1.ヒトiPS細胞からの肝細胞分化誘導の最適化】: 研究代表者が過去に報告した方法を中心として、最近様々な研究室から報告された分化誘導法のうち有望であると考えられるものも導入して検討を行い、本研究におけるヒトiPS細胞からの肝分化誘導プロトコールの最適化を行った。その結果、既報にいくつかの改変を加えることによって、良好な再現性をもってヒトiPS細胞から肝細胞様細胞、すなわち、肝細胞分化マーカーであるアルブミンやAFPなどをmRNAレベルおよびタンパクレベルで発現する細胞への分化が可能となった。 【2.ヒトiPS細胞由来肝細胞へのウイルス遺伝子の強制発現系確立】:1.で作製したヒトiPS細胞由来肝細胞に、C型肝炎ウイルスがコードする各々の遺伝子若しくはその組み合わせを導入し強制発現させるための系を作製した。C型肝炎ウイルスがコードする全てのタンパクをクローニングし、これを薬剤誘導性発現ベクターに組み込んだ。これをヒトiPS細胞に導入し、薬剤添加による発現誘導が行われることが確認された。さらに、分化誘導の後にも薬剤添加による発現誘導の系が働くことを確認した。 【3.既知の免疫標的分子の2.における発現変動の評価】NK細胞やγδT細胞など、非特異的腫瘍免疫の標的分子として既知のものであるMICA、MICB、ULBP1~4等について、mRNAレベルおよびタンパクレベルで評価する系を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主に、ヒトiPS細胞からの肝細胞分化誘導の最適化、ヒトiPS細胞由来肝細胞へのウイルス遺伝子の強制発現系確立、既知の免疫標的分子の発現変動の評価系の構築を行った。 ヒトiPS細胞からの肝細胞分化誘導については、既報の再現から着手し、その方法に新たな改変を加えること、種々のトラブルシューティングを行うことにより、頑強な分化誘導系を確立することに成功した。本研究を安定して推進を支える重要な技術であり、この部分に着実な成果が得られたことは今後の研究進捗に資するところが大きいと考えられる。 ヒトiPS細胞由来肝細胞へのウイルス遺伝子の強制発現系確立に取り組んだ。当初はウイルス自体の感染も考えていたが、ヒト多能性幹細胞由来肝細胞への野生型肝炎ウイルス感染系については世界的に見ても確立した技術とはいえないことからその成功には相応の困難が予想され、また本研究全体の目的を達成するためには必須ではないためウイルスがコードする遺伝子の強制発現系構築に注力した。その結果、C型肝炎ウイルスがコードする全ての遺伝子について、薬剤誘導性発現系の構築を行うことができた。 また、免疫標的分子の発現評価系の構築も行うことができた。 上記はいずれも今後の研究推進の土台となる内容であり、ここを強固にしておくことが重要であるとの認識から、こらら内容に注力し、着実かつ充分な進捗を得ることができた。この結果、当初計画ではH26年度に実施予定であった、ヒトiPS細胞由来肝細胞への肝炎ウイルスタンパク発現による免疫標的分子の発現変動の評価や、変動した分子の評価系構築には至らなかったが、上述のとおりの強固な基盤形成のうえにたち、これらの部分はH27年度に迅速に推進することができ、研究全体の計画に大きな負の影響はと考えられることから、おおむね順調に進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
まず、当初計画ではH26年度に実施予定であった、ヒトiPS細胞由来肝細胞への肝炎ウイルスタンパク発現による免疫標的分子の発現変動の評価や、変動した分子の評価系構築を行う。前者についてはmRNAレベルおよびタンパクレベルで評価する。ウイルスタンパクは、免疫標的分子発現制御への関与が過去の報告で示唆されているものから着手するが、それ以外のウイルスタンパクについても順次評価を進めることとする。発現変動が見られた分子について、今後の研究において用いるのに最適な評価系構築を進める。具体的には、ゲノム編集技術をもちいた蛍光タンパク等のノックインによるレポーターシステムの構築や、免疫染色などが考えられる。いかなる技術を選択するかは、当該分子の発現変動の程度や発現変動パターンについてのデータが取得した時点でそれらを元に検討のうえ決定することとする。 上記に続いて、発現変動が見られた分子に関する発現制御機構の探索を進める。発現変動するものとして同定された分子の発現制御機構の中から、その機能や発現制御についての既知の知見をもとに、本研究で探索する機構への関与の可能性が考えられる候補遺伝子を絞り込む。それらの分子について遺伝子の強制発現やノックダウン、阻害剤の投与などによる影響を調べる。また、それらの遺伝子のプロモーター領域の配列から結合が予測される転写因子の変動に着目して同様の実験を行う。さらに、当該遺伝子が転写因子である場合には、ルシフェラーゼアッセイやクロマチン免疫沈降を行うことでそのターゲット領域を同定する。 このようにして発現制御機構が明らかになれば、その機構の中で中心的役割を果たす分子を明らかにし、それを標的とした創薬へと展開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、研究計画に沿って着実に研究を遂行し、研究経費の執行を行っていた。しかし、年度末の時点で、当初予定額に対して若干の経費が残ってしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については、翌年度分として請求した助成金と合わせて有効に執行を行う。次年度使用額は445円と小さいため、翌年度の計画には大きな変更を生じることはない。
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