癌の発生および進展のプロセスにおいて、腫瘍免疫による監視機構からの逸脱は重要な意義があると考えられるが、その分子機構の多くは不明である。本研究は、ヒトiPS細胞からの肝細胞への分化誘導技術やiPS細胞の遺伝子改変技術等を駆使することによって、ヒト非癌肝細胞へのウイルス感染に惹起される免疫標的分子の発現制御機構を包括的に明らかにし、それをターゲットとする創薬へと展開するための系を確立することを目的として行った。 まず、ヒトiPS細胞からの肝細胞分化誘導法について、研究代表者らが過去に報告したプロトコールをさらに発展させ最適化した。 また、C型肝炎ウイルスがコードするタンパク質の全てについて、薬剤誘導性発現プラスミドをPiggyBacベクターを用いて構築しヒトiPS細胞に導入し、C型肝炎ウイルスタンパク質発現株を樹立した。また、同じベクターで薬剤誘導性にグリシンのみを発現する株を陰性対照とするために樹立した。こうして得られた株について、未分化維持ができるほか、肝細胞分化ができることが確認された。 上記の株を肝細胞へと分化させ、薬剤添加によりC型肝炎ウイルスタンパク質を発現させ、遺伝子発現解析を行った。この結果、ある特定のタンパク質の強制発現によって、ある既知の免疫標的分子の発現が増加することが明らかになった。また、マイクロアレイを用いて網羅的遺伝子発現を評価し、このウイルスタンパク質の発現が免疫標的分子発現を惹起する機構についての解析を進めている。
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