研究課題/領域番号 |
26461024
|
研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
小木曽 智美 東京女子医科大学, 医学部, 准講師 (10318082)
|
研究分担者 |
橋本 悦子 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (40130273)
山本 雅一 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (60220498)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 非アルコール性脂肪肝炎(NASH) / 肝癌(HCC) / stemness marker |
研究実績の概要 |
わが国では今後非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が増加し、肝癌(HCC)の発生母地としても高頻度となると予想される。NASH からのHCC発生には、多能性幹細胞や初期胚など未分化な細胞に発現する遺伝子(stemness 遺伝子)が発現亢進し癌化や増殖に関与していると考えられ、NASHを基盤とした肝癌幹細胞の同定と肝発癌における役割の解析は重要である。多くの肝癌は慢性的に炎症の持続した背景肝より発生するが、ウイルス性とNASHやアルコールなどの代謝性の要因による炎症では炎症の主座が異なる。HCVでは門脈域を中心とした持続性の炎症反応により線維化が進展・結合するのに対し、NASHの線維化は中心静脈周囲から始まり、細線維が実質内に出現していくことが特徴である。また、C型肝炎由来のHCC (HCV-HCC)では臨床的にはAFP、PIVKA-IIなどの腫瘍マーカーが上昇するが、NASH由来のHCC (NASH-HCC)では上昇しないことも多く、またPIVKA-IIの上昇を先に認めるなどの相違があり、少なくとも2系統の発癌経路があると推察している。しかし、HCC組織ではほぼ同様のphenotypeを示す。我々は外科切除標本を用い、stemness marker を免疫組織染色しNASH-HCCとHCV-HCCの異同を比較検討することで、NASH 特有の発癌関連遺伝子を探索する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HCV-HCCとNASH-HCCの肝切除標本を用いて、胚性幹細胞の特徴である多分化能と自己複製能の維持に関与するstemness遺伝子であるNanogやEpCAM などの癌幹細胞マーカー発現、酸化的DNA傷害マーカー8-OHdG発現を癌部、非癌部の免疫染色で検討した。染色結果の評価は10-<50 %の染色細胞を認めるものを弱陽性、50%以上を強陽性とした。 1. Nanogは細胞質に発現し、非癌部での陽性率は、弱陽性NASH-HCC 15%/ HCV-HCC 5 %、強陽性85%/ 95 %、癌部では弱陽性25%/ 15 %、強陽性15%/ 0 %で、強陽性例は全例癌部にsteatohepatitic (SH)の特徴を呈するSH-HCCであった。8-OHdGは核に染色され、非癌部では弱陽性 60%/65%、強陽性 20%/20%、癌部では陽性 30%/35%、強陽性 50%/45%であった。EpCAMは細胞膜に発現し、非癌部弱陽性 25%/41.7%、強陽性 10%/41.7%、癌部弱陽性 5%/8.3%、強陽性 5%/8.3%であった。 2. 線維化の程度別比較では、Nanog、8-OHdGには差がなく、軽度線維化群でEpCAM 弱陽性0%/60%、強陽性 0%/20%、高度線維化群弱陽性 6.3%/85.7%、強陽性 50%/14.3%であった。 3. Nanog発現が強陽性群とその他群の臨床検査値の比較では、T-BIL (0.9/ 0.4 mg/dl)、ALT (47/22 U/l)、PT% (84/ 100%)、FBS (104/ 227 mg/dl) に有意差を認めた (p<0.05)。EpCAM発現が強陽性群 (40%) とその他群(60 %)の比較では、PT% (81/ 98%)に有意差を認めた (p<0.01)。 4. 線維化の軽度群 (20%)と高度群 (80%)の比較では、高度線維化群でEpCAM発現が高度であった。 基礎肝疾患によって発現するstemness markerの有意性に相違が認められた。肝病態の進行に伴い幹細胞マーカー陽性細胞が増加することから、NASH傷害肝の肝再生に幹細胞が関与しているものと推察された。
|
今後の研究の推進方策 |
1.発現亢進しているNanogやEpCAMが、炎症の進展や発癌にどのように関与しているかを検討するため、ターゲットとなる下流の分子を探索する。例えば、細胞周期を正に制御するサイクリンやサイクリン依存性キナーゼおよび負に制御するサイクリン依存性キナーゼ阻害分子などの発現を検討する。また、検討数の増加のために臨床検体に加えマウス検体も合わせて検討していく。 2. ミトコンドリア機能異常が発癌機構に関与すると推定されているが、NASHでは明らかではない。NASHではインスリンシグナル異常・酸化ストレスが発癌に関与していると想定されるため、stemness 遺伝子とミトコンドリア機能異常による発癌機構仮説を臨床検体とin vitro の実験で検証し、NASH からのがん発症のメカニズムに基づいた介入法の開発につなげる。 3. さらに、今後発癌機構が明らかになった際には、in vivoでの検証を施行する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
臨床検体を用いているため採取に時間がかかり、病理標本作成や抗体の条件検討に時間を要したため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度以降は、臨床検体に加えマウス検体も合わせて検討していくことで研究の能率化を図る予定である。
|