肝細胞に小胞体ストレスをきたす疾患として非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、ウイルソン病ならびにC型肝炎ウイルス感染症を想定して検討を行った。 脂肪性肝疾患に関しては培養細胞、マウスならびにヒト肝生検組織にて検討を行った。マウスに高脂肪食を負荷した検討では小胞体ストレスが惹起された(splicerd XBP1、phosho-eIF2α)。電子顕微鏡による検討でも小胞体の形態変化を認め、オートファゴゾームの増加を認めた。オートファジーのマーカーであるLC3-IIとp62の蓄積を認めた。Atg7やbeclin 1の発現に変化はなかった。そのためオートファジーの変化の詳細を培養細胞にて検討した。肝由来の培養細胞を用いて飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の影響を検討した。飽和脂肪酸であるパルミチン酸で小胞体ストレスが惹起され、マウスと同様にLC3-IIとp62の蓄積を認めた。この原因を詳細に検討するとオートファゴゾームとライソゾームの癒合を小胞体ストレスが阻害していることが明らかとなった。そのため小胞体ストレスの解除がこの病態の治療となると考えられた。ヒト肝組織でもp62とLC3の発現亢進をNAFLDで確認した。 ウイルソン病患者の肝組織の電子顕微鏡による観察で小胞体の形態変化を認めた。また培養細胞に硫酸銅を負荷すると酸化ストレスと小胞体ストレスが確認された。これにプロテアソーム阻害剤で軽度の小胞体ストレスを負荷するとアポトーシスが誘導された。これらの変化は銅キレート剤、亜鉛、抗酸化ストレス薬ならびに分子シャペロンで改善された。このことから銅の細胞障害により酸化ストレスと小胞体ストレスが関与しており、これらの解除が治療に有用であることが示された。さらに亜鉛による肝細胞の直接的な保護作用も示された。 C型肝炎感染細胞でも同様な検討を行い、脂肪負荷と類似な変化を認めている。
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